10月20日 αシヌクレイン症誘誘導に関する新しい経路(10月18日 Cell オンライン掲載論文)
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10月20日 αシヌクレイン症誘誘導に関する新しい経路(10月18日 Cell オンライン掲載論文)

2024年10月20日
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パーキンソン病 (PD) やレビー小体認知症、さらに他系統萎縮症は通常シナプスで働いている αシヌクレインが異常構造をとることで凝集し、オリゴマーや繊維化を形成することで細胞障害性が発揮されるとされている。レビー小体のように繊維化したシヌクレインが集まるとかなり目立つが、細胞毒性で見るとオリゴマーが毒性を持つとされている。

元々変異を持つ αシヌクレインは別として、どうして正常の分子が異常構造をとるのかについては諸説あってまだよくわかっていない。ところが、今日紹介する熊本大学からの論文は、シヌクレインのオリゴマー形成を誘導するのが RNA G-quadruplex である可能性を示した論文で、少なくとも私にとっては全く新しい話なので驚いた。タイトルは「RNA G-quadruplexes form scaffolds that promote neuropathological a-synuclein aggregation(RNA G-quadroplexes は神経病原性の αシヌクレイン凝集のスキャフォールドを形成する)」で、10月18日 Cell にオンライン掲載された。

RNA G4 についてはほとんど知らなかったので調べてみると、グアニンを多く含むリピートを持つ mRNA や non coding RNA で、Gがカチオンを中心に4つ集まった環状構造をとり、それが重なってできる特殊な構造で、人間のゲノムにはテロメアを中心になんと376000箇所もこの構造をとる部位が特定されており、特に相分離を通して RNA 結合タンパク質を隔離したりする役割、そして様々な神経疾患での関与が知られるようになり、急速に研究が進んでいる分野だ。

この研究ではシーズと呼ばれるシヌクレインを加えた神経細胞で起こるシヌクレイン凝集形成過程を詳しく調べ、最初 RNA 結合タンパク質とともに相分離体を形成することに気づく。そして、それ自身では相分離が起こらない αシヌクレイン相分離させる分子機構を探索して、RNA G4 がシヌクレインのN末端と結合して凝集を誘導できることを発見する。これが研究のハイライトで、私の知る限りシヌクレインの凝集メカニズムについての全く新しい可能性が示されたことになる。

次に、細胞質の Ca濃度が高まったストレス神経細胞を用いて、シヌクレインシーズで処理された神経細胞でシヌクレインと RNA G4 が相分離体を形成していることを証明している。そして、パーキンソン病の患者さんの死後脳でもリン酸化されたシヌクレインが RNA G4 と結合していることを確認している。

次に RNA G4 の由来を、凝集が起こっている神経細胞内でシヌクレイン結合RNAの配列から、すでに G4構造をとることが知られている CAMK2a と Dlg4 遺伝子の mRNA と特定している。

次にこの凝集が神経細胞機能を傷害することを調べるため、光を当てると凝集が誘導される cryptochrome2 分子を利用した一種の光遺伝学を用いて、シヌクレインが RNA G4 により凝集すると、シナプス発火が抑えられることを示している。また、同じシステムがドーパミン神経に導入されたマウスの中脳に光を毎日照射し、シヌクレインの凝集を誘導し続けることで、ドーパミン産生細胞が低下すること、そしてその結果運動障害が現れることを示している。

これだけでも十分面白いのだが、さらにシヌクレインシーズを中脳に注射することで誘導されるドーパミン神経細胞の減少を、RNA G4 のシヌクレインとの結合を阻害分子PPIX に転換される 5-ALA を経口摂取することによって抑えられることを示している。

以上が結果で、全くオリジナルなアイデアに基づいて、利用可能な薬剤まで示した力作で、今後はシヌクレイン・シード注射という急性モデルから、患者さんの iPSモデルや、遺伝子改変マウスを用いた検証実験が必要だと思うが、期待したい。

また 5−ALA はサプリとして利用されているので、治験のハードルも低いように思う。

私自身は熊本大学と縁が深い。その意味で、このようなオリジナルな研究が発表されたことは単純にうれしい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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