今日は将来有望と思われる抗体治療論文2編を紹介する。
最初は、ロッシュ社研究所から論文で、パーキンソン病でプリオンのように働いて神経細胞を傷害する凝集シヌクレインに対する抗体を用いた治験で10月8日Nature Medicine にオンライン掲載された。
アルツハイマー病で現在使われている抗体はアミロイドβのように細胞外に蓄積する分子なので、抗体さえ届けば進行を遅らせられることはわかるが、Tauやシヌクレインは細胞内で作用すると考えられ、抗体治療の可能性は少ないと考えられていた。しかし、Tauでも抗体が細胞内で分解を促進したりすることがわかってきており、当然シヌクレインに対する抗体も、神経細胞間の伝搬だけでなく、神経を保護する可能性も十分ある。
実際、凝集シヌクレインに対する抗体を用いた小規模治験が行われており、効果が見られている。この研究はその延長で、厳密にコントロールされた第二相治験での症状に関する効果を中間報告したもので、4年の経過を調べている。この研究の特徴は最初から抗体治療を受けた人と、最初は偽薬で、1年目から抗体治療にスイッチした患者さんでの効果を調べている。
結果は極めて有望で、運動機能障害の進行を抗体投与により強く抑制できると結論している。ただ、ドパミントランスポータSPECT検査では、脳画像上の改善は見られていない。従って、今後さらに長期の経過が調べられる予定だが、有望だと思う。
次は Vir Biotechnology とワシントン大学、ユタ大学からの論文で、Covid-19の原因ウイルスSARS-CoV-2(CoV2)は言うに及ばず、なんとほぼ全てのコロナウイルスの感染を抑制できるモノクローナル抗体の開発で、10月8日 Cell にオンライン掲載された。
これまでも、突然変異体も含めて多くのコロナウイルスをカバーできる抗体の開発が進められてきた。この研究では、最初の武漢株ワクチンを受けた後、オミクロンに感染した患者さんから分離したB細胞が分泌している抗体遺伝子を分離、それを Cov2、CoV1 を含む様々なコロナウイルスパネルと反応させ、広く反応する抗体を選び、これを酵母に発現させて変異を誘導し、その配列を機械学習で選択することで、最終的に調べたほとんどのコロナウイルスに反応できる VIR-7299 を選んでいる。
たしかにコウモリに存在するいくつかのウイルスの中には反応しないものもあるが、現実的にほぼ全てをカバーできると言っていい。
また、多くの変異体について調べても、これまで知られているCoV2変異体はほぼ全てカバーできている。さらに、VSVウイルスを用いた感染システムで、抵抗性の変異体の出現を見ても、これまでの抗体と異なり、ほとんど抵抗性の変異が現れない。
なぜこのような特徴を持つに至ったかを、構造的に解析している。詳細を省いて、わかりやすく言うと、まずウイルスの受容体結合部位に、抗体の3つの可変部分全てを使って結合し、しかも結合部位の構造を決める分子の骨格に直接結合して、抑制を行っている。この骨格は感染に必須であるため、変異が起こりにくい。さらに、多くのアミノ酸と水素結合を形成していることから、親和性も高い。
結果は以上で、明日からでも治験を行って、将来の新しいコロナパンデミックの備えとしてほしいものだ。