10月29日 高地文明を無人機とレーザースキャンで白日に晒す(10月23日号 Nature オンライン掲載論文)
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10月29日 高地文明を無人機とレーザースキャンで白日に晒す(10月23日号 Nature オンライン掲載論文)

2024年10月29日
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レーザーを照射して返ってくる光をキャッチするまでの時間から距離を計算するリモートセンシング技術は Light Detection and Ranging (LiDAR) 、例えばゴルフでグリーンまでの距離を測る機器として一般にも出回っているが、地図の作成には欠かせない技術になっている。さらに、森林に覆われた対象物のように、森林の表面からの反射と、その奥からの反射を計算して隠れた構造物をcm単位で明らかにできる技術へと発展しており、軍事だけではなく様々な用途に広がりを見せており、このリモートセンサーを積んだヘリコプターでスキャンすることで、アマゾンの森林の中に隠されていた伝説の都市機構が発見された考古学的発見については以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/19737)。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、ヘリコプターの代わりに、今や戦争の主役に躍り出た無人機に LiDAR を搭載して、探索がしにくい高地に存在した都市機構を、ウズベキスタンで発見し、解析した研究で、10月23日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Large-scale medieval urbanism traced by UAV–lidar in highland Central Asia(中央アジアの高地で中世の大規模都市機構を無人機―LiDARを用いて追跡した)」だ。

今回研究対象となったウズベキスタン Tashbulak と Tugnubulak の2000mから2500mの高地に都市遺跡が埋もれていることはすでに2011年、2015年にそれぞれ一部が発掘されていた。本来なら長い年月をかけてそのまま発掘が続けられるということになるのだろうが、まずその前に都市の規模と位置を完全に把握する目的で今回の調査が行われている。

この遺跡は森で囲まれたアマゾンの遺跡とは異なり、実際には様々な堆積物で埋まってその上を草が覆っているという、大きな丘が対象になる。写真が示されているが、一部を除くと、ただの丘にしか見えない。このようなケースでも、LiDAR が威力を発揮できるとすると、今後同じ方法がさらに大きな発見につながる可能性があると思う。その意味で、今後実際の発掘が進むこの遺跡を、LiDAR で調査し、方法を検証することの意味は大きい。

実際に発掘して確かめた結果ではないので、測定結果を処理して画像に仕上げるまでの過程が最も重要な問題になる。ただこの評価は専門外の私には難しい。ただ輪郭線から計算され再構成された立体画像は驚く精度で、ここでも AI が活躍する。そして、明らかになったのは、12ヘクタールの要塞型都市構造だ。この構造の中には、要塞の壁、都市の道路、広場、様々な構造の建物などが含まれている立派な都市だ。時代測定から中世に存在したことが確認されており、一部の100ヘクタールを超す要塞都市を除外すると、当時では都市のサイズとしても大きな方に属する。

その結果考古学的問題として浮き上がってきたのは、これほどの都市遺構が存在するにもかかわらず、人の住居のあとが見当たらない点で、常に住人が行き来するという現在の都市からはほとんど考えられない。もちろん想像の域を出ないが、遊牧民がテント生活をしながら、夏の間だけ成立させていた都市があるなら、その例になる可能性がある。実際、周辺で農耕活動は極めて低く、住民が牧畜を中心としていたことがわかっているので、この可能性は十分ある。

以上が結果で、実際の発掘が進むことでこの技術の有効性が明らかになる。その結果を是非知りたい。

カテゴリ:論文ウォッチ