12月28日 EBウイルスをガン治療に用いる(12月23日 Nature オンライン掲載論文)
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12月28日 EBウイルスをガン治療に用いる(12月23日 Nature オンライン掲載論文)

2020年12月28日
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ウイルスの増殖にホストの細胞が必須である以上、ウイルスはどこかでホストに順化し、子孫が維持されるための様々な戦略を取る。その一つが、活動を休止する潜在化で、例えば神経節細胞中で潜在化して、疲れたりすると急に水泡症を起こすヘルペスウイルスはよく知られた例だ。同じように潜在化する例がEBウイルスで、ほとんどの日本人はこのウイルスに感染している。このウイルスに感染するとウイルスが持つLMP1 と呼ばれる分子により、B細胞は白血病化することが知られている。ただ、ウイルスが活性化してLMP1が発現した細胞は直ちに、免疫系に検出され除去される。すなわち、EBウイルスはわざわざ感染細胞にガン抗原を強く発現させて、ホストがガンで死んでしまわないよう、ホストの免疫系をコントロールしているとさえ言える巧妙さだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文はEBウイルスのLMP1をガン治療に利用する可能性を追求した研究で、12月23日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Mechanism of EBV inducing anti-tumour immunity and its therapeutic use(EBウイルスが抗腫瘍免疫を誘導するメカニズムとその抗腫瘍治療への利用)」だ。

以前はEBウイルス感染で免疫系が標的にするのは、EBウイルスがコードする分子ではないかと考えられていたが、現在ではホスト側の分子が細胞表面に提示された抗原を認識しているのではと考えられるようになっている。この研究ではまず、LMP1を誘導したB細胞は、CD4、CD8陽性細胞両方の強い免疫反応を誘導すること、この時誘導されるT細胞の抗原受容体のレパートリーは多様で、決して導入したLMP1によるものでないこと、さらにLMP1とよく似た共刺激シグナル活性を持つCD40陽性B細胞も、LMP1誘導B細胞に対するT細胞に認識されることを確認し、LMP1は共シグナル分子としてT細胞免疫を高めるとともに、ホスト細胞分子由来の一種のガン抗原の発現を高める活性があり、これによりEB感染細胞に対する強い免疫反応が誘導されることを確認する。

では、ホスト側のどの分子が抗原となって免疫系に検出されるのか、LMP1やCD40を発現したB細胞で選択的に発現する分子の中から、2種類の分子、survivinとEPHA2を選び出し、試験管内のT細胞反応、および抗原ペプチドとMHCが形成する4量体を用いる抗原特異的T細胞を染色する方法を用いて、LMP1が発現するとこれらの分子が一種のガン抗原として働き免疫を誘導することを明らかにする。

重要なのは、この系で活性化される免疫系が検出するのは、クラス1、クラス2―MHCを問わず、細胞内で処理されたペプチドだけで、同じ抗原を細胞外に加えても処理されない。以上のことから、LMP1を発現させるだけで、新しい様々なガン抗原を内在的に調達したB細胞が誘導でき、さらにこのガン抗原の中にはLMP1を発現していない、例えば腫瘍化したB細胞が発現する抗原も含まれる可能性が強く示唆される。

とすると、当然B細胞腫瘍の治療に、LMP1を用いることができる。これを確かめるため、免疫原性の低いBリンパ腫細胞株にLMP1を発現させ、この細胞を用いて試験管内でCD4T細胞を刺激、増幅したあと、このCD4陽性細胞が、LMP1を導入していないリンパ腫細胞を障害できるか調べている。結果は期待通りで、LMP1が導入されていないリンパ腫も完全に除去することができることが明らかになった。また、PD1抗体によるチェックポイント阻害を組み合わせるとさらに高いキラー活性が得られることも示している。

この前臨床研究結果に基づき、実際の慢性リンパ性白血病の患者さんの細胞にLMP1を発現させ試験管内で末梢血からCD4陽性細胞と培養すると、キラー活性を持つ細胞を誘導できること、そして同じキラー細胞はLMP1を導入していない白血病細胞が発現するガン抗原を認識できることを示している。

以上が結果で、まだ前臨床実験と、試験管内でのコンセプトの検証実験が行われたところだが、ディスカッションでは既に臨床治験が進められていることも述べているので、早晩結果を知ることができると思う。慢性リンパ性白血病は、進行するとCAR-T以外なかなか免疫系が治療に動員できない。その意味で、この方法は期待できる。

一方、私たちのほとんどがEBウイルスに感染し共存関係にあるのは不思議といえば不思議で、ひょっとしたら抗体反応で頻回に現れる異常B細胞を検出するために、私たちもEBウイルスを使っているのかもしれない。

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12月27日 妊娠後期フコシル化されていないIgGは選択的に胎児に輸送されるようになる(12月15日 Cell オンライン掲載論文)

2020年12月27日
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昨日、エンベロープ型ウイルスの構造タンパク質のうち、私たちの細胞膜に発現するスパイク分子に対する抗体は、まだよくわからないメカニズムで抗体のフコシル化が低下すること、その結果FCγ受容体3a(FCGR3A)に対する抗体の結合性が何十倍も上昇し、ウイルス感染細胞を抗体により除去する確率は高まること、しかしこれは諸刃の刃で、フコシル化されていない抗体が強い炎症を誘導し重症化を誘導することを示した論文を紹介した。

この結果を頭に読むと、今日紹介するハーバード大学からの論文もわかりやすい。論文のタイトルは「Compromised SARS-CoV-2-specific placental antibody transfer(抗体の胎盤通過はSARS-CoV-2で特異的に損なわれている)」で、12月15日Cell に掲載が決まったばかりだ。

Covid-19は子供に感染しにくく、感染してもまず重症化しない。ただ、新生児、乳児についてはこのルールが当てはまらないことが知られている。わが国では少ないようだが、欧米では1歳未満の子供が感染すると、重症化しやすく、川崎病様の全身血管炎に発展することが注目されている。

結論から言ってしまうと、この論文はフコシル化されていない抗体が選択的に胎児に輸送され、これが生後感染したときに重症化しやすい要因になりうることを示している。糖鎖修飾能は高齢化とともに低下し、一方糖鎖修飾を受けていない抗体が胎児に移行しやすいとすると、高齢者と1歳未満で重症化が起こりやすいことも説明がつくと言うわけだ。

ただこの研究ではフコシル化が低下すると重症化するかどうかについては検討していない。新生児が重症化しやすい原因の一つが、母親から胎児に移行する抗体にあると考えて、CoV2に感染した妊婦さんの血中抗体と、臍帯血中の抗体を比べ、その違いを丹念に調べている。

結果をまとめると、

  • 妊娠後期では、スパイクに対する抗体は、Nタンパク質に対する抗体と比べると、胎児に移行しにくい。ワクチンで誘導されたインフルエンザHAや百日咳菌に対する抗体は、正常に胎児に移行する。
  • 移行する抗体の機能を調べると、補体結合能が高く、白血球活性化を誘導する抗体は移行しにくい。
  • 上の結果から、胎児への移行の違いは糖鎖修飾にあると考えられるが、母体と臍帯血の抗体の糖鎖を比べると、胎児にはフコシル化の程度が低い抗体が選択的に移行し、他の糖鎖修飾抗体が移行できていない。
  • この原因を探ると、CoV2感染により、フコシル化されていない抗体と結合力の高いFCGR3aの発現が胎盤で上昇している。もともと抗体移行は胎盤で発現するFcRnによって媒介されるが、感染母体ではFCGR3aとFcRnが共発現しており、これがFCGR3aへの結合性の高いフコシル化されていない抗体の選択的移行に関わる。

実際には、他のタイプの糖鎖修飾の結果など飛ばして紹介しているが、以上の結果からこのグループは、補体結合能の高い抗体が胎児に移行しない結果、新生児は重症化しやすいと結論している。ただ、昨日紹介したLandsteiner研究所からの論文を合わせると、フコシル化されていない抗体が新生児が重症化しやすい要因になる可能性も考えられる。

毎日論文を読んでいると、Covid-19の医学研究が世界の津々浦々で進んでいることがわかる。この知識財産は圧倒的で、特に実験動物だけでなく人間についてもリアルタイムで研究が進んでいることの結果だろう。おそらく、これをきっかけに21世紀の医学はさらに人間を対象にした科学へと舵を切るだろう。そして、さらに大きな実験、1年にも満たないうちに何億という人に同じワクチンが接種されると言う壮大な試みが進む。ここで得られる情報は、最初の免疫をコントロールしていると言う点で、計り知れない。この試みからどれほど情報を引き出せるのか、わが国の科学が試されている。

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12月26日 抗体の糖鎖修飾とCovid-19(12月23日 Science オンライン掲載論文)

2020年12月26日
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今週目にしたCovid-19に関する論文の中に、ウイルスに対する抗体の糖鎖修飾とFc受容体の一つ、FGCR3についての論文が2報あったので、連続的に紹介する。以前Ravechのグループによる論文を紹介したが、抗体の活性はFc部分で決まる。特に、Fcγ受容体3aはIgGの糖鎖修飾でフコシル化が行われると結合性が落ちることが知られている。逆に言うと、フコシル化を受けていない抗体に対して強く結合して、抗体による細胞障害を助けることから、抗体からフコースを除去してよりガン細胞を殺しやすい抗体作成技術を謳う多くのベンチャー企業ができている。

今日紹介する抗体の化学研究黎明期のLandsteinerの名前がついたオランダの研究所からの論文は新型コロナウイルス(CoV2)対する抗体のフコシル化の程度と重症度との相関を調べ、重症化している人ではフコシル化されていない抗体の比率が高まっていることを示した研究で、12月23日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Afucosylated IgG characterizes enveloped viral response and correlates with COVID-19 severity (フコシル化されていないIgGはエンベロープウイルスに対する反応で現れるがCovid-19の重症度と相関している)」だ。

元々アロの赤血球のような膜抗原に対する抗体はフコシル化されにくいことが知られている。この研究ではまず肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、パルボウイルス、おたふく風邪ウイルスなどに対する抗体の糖鎖修飾を調べ、エンベロープウイルス感染ではフコシル化の低い抗体が出やすいことを発見する。これは、エンベロープウイルスの場合、ホストの細胞表面にもウイルス構造タンパク質が発現するため、赤血球に対する抗体反応と同じようなことが起こったと考えられる。

当然エンベロープを持つウイルスCoV2でも同じで、構造蛋白のスパイクに対する抗体ではフコシル化が低下しているケースが存在する。一方、ホストの細胞表面に発現しないNタンパク質に対する抗体では正常にフコシル化されている。

驚くのは、スパイクに対する抗体で見た時、フコシル化が低下している抗体は急性呼吸器逼迫症を発症した重症例で多く、軽症で止まった患者さんでは最初からフコシル化の程度が高い。他の糖鎖修飾でもARDS発症との相関が見られるが、この場合Nタンパク質とスパイクに対する反応ではほとんど差がない。

最後にフコシル化抗体と重症化の指標であるIL-6とCRPレベルを調べると、フコシル化の程度と炎症の指標が逆相関していることを確認している。

結果は以上で、もちろん臨床データなのでyes or noがはっきりしない場合もある。ただ、最後の炎症とフコシル化の程度が逆相関しているデータは、程度の差はあれかなりはっきりしているように思った。

これらの結果から、この論文ではウイルス感染したホストの細胞表面に発現した抗原に免疫系が触れる結果、フコシル化が低下した細胞を殺す能力が高い抗体が誘導される。通常、これはウイルス感染細胞を除去するには良い効果を示すのだが、ある域値を超えると、感染細胞に最初から強い炎症が誘導され、重症化すると言うシナリオを提案している。元々糖鎖修飾は年齢とともに低下することから、高齢者が重症化しやすいことの一つの説明にもなる、説得力のある仮説だと思う。

現在膨大な数の患者さんの血清が集まり、またこれから様々なモダリティーのワクチン接種を受けた人たちの血清が集まるだろう。この検査は基本的に血清さえ存在すればわかるので、今後さらに多くのサンプルで、自然感染と人工免疫の差も含めてフコシル化の違いを見ていくことで、ウイルスやガンに対する新しい抗体治療の糸口が得られるような気がする。

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12月25日 アデノ随伴ウイルスベクターはゲノムに挿入される:リスクとベネフィットの自己判断に必要な医学知識(11月16日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2020年12月25日
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ガリレオ以降、個人の思いつきでも、捏造を排して、他人とコンセンサスを得るための方法論を確立した科学は、結局最も信頼できる知識の源として社会を支えてきた。といっても、科学自体はフッサールの言う「生活世界」からは独立した世界だが、技術を通して生まれた様々な製品を通して、生活世界とつながっている。ただ、技術化される前の知識が生活世界と共有されることは少なかった。わかりやすく言えばスマートフォンは科学的知識なしに生まれないが、科学的知識がなくてもそれを所有し、恩恵に預かれる。

しかし、医学知識になると状況が少し異なる。あらゆる医学的技術にはリスクとベネフィットがあり、どちらを選ぶかは、本当は個人の決断にかかっている。ただ知識の質量があまりにかけ離れているため、「私ならこちらがいい」と専門家がオーソライズした意見を参考にせざるを得ない。多くのメディアに専門家が現れて、自分の判断を述べているのはこの現れだ。

しかし今回の新型コロナ感染で分かるように、専門の「意見」は、科学的手続きで決着しない限り一つになり得ない。そんな時、一般の人は何を根拠に決断すればいいのか。この時誰でも参考にでき共有できる「医学的知識とは何か?」。この問題になんらかの答えを出したいと思う心が、現在梅田北再開発に伴う街づくり計画の一つ「参加型ヘルスケア」に私たちAASJが全面的に協力した理由だ。

少し前書きが長くなったが、生活世界と共有できる「医学的知識」の必要性を示す一つの研究が11月16日Nature Biotechnologyにペンシルバニア大学からオンライン出版された。タイトルは「A long-term study of AAV gene therapy in dogs with hemophilia A identifies clonal expansions of transduced liver cells  (血友病に対してアデノ随伴ウイルスベクター遺伝子治療を受けた犬の長期経過研究により肝臓細胞の増殖性変化が起こる可能性が明らかになった)」だ。

要するに私の不勉強に過ぎないが、アデノ随伴ウイルスで導入した遺伝子は、ゲノムに組み込まれることはほとんどないと思っていた。ただ、細胞の中で外来DNAがエピゾームの形で長期間存在すれば、組換えが起こると言われても不思議とは思わない。この研究では、血友病の犬の肝臓にアデノ随伴ウイルス(AAV8,AAV9)に組み込んだ第8因子遺伝子を導入し、最長で10年経過を観察した研究で、導入したアデノ随伴ウイルスは長期間間細胞内で働き続け、その結果肝細胞のゲノムにも組み込まれ、組み込まれたウイルスの作用で増殖力が高い肝細胞が発生すると言うものだ。

重要だと思われる結果を要約すると以下のようになる。

  • 遺伝子治療は門脈ルートで一度だけ行っただけなのに、第8因子の血中濃度は正常の1−10%のレベルに保たれ、また血中の第8因子レベルから期待される以上に、血友病による出血などの症状は強く抑えられる。すなわち、組換えタンパク質を投与する治療より、コストも効果も、ベネフィットは大きい。
  • なんと、9匹中2匹では、4年を過ぎたあと、血中第8因子が上昇している。これは予想外の効果で、ヒトでも同じことが起これば、遺伝子治療の勝利と言ってもいいだろう。しかし、この原因を考えると手放しでは喜べない。すなわち、導入された細胞の一部が選択的に増加していることを示している。様々な方法で検討すると、挿入されたアデノウイルスの効果により細胞の増殖力が高まった可能性が大きい。
  • アデノウイルス配列をプライマーとして増幅した断片に含まれるホストゲノム配列から、ゲノムに挿入された可能性を探索すると、調べた全ての肝臓で、ランダムに13ー764カ所の独立した挿入を特定できる。
  • ほとんどの挿入サイトは拡大することはないが、一部は繰り返し検出されることから、挿入された細胞クローンが選択的に増殖している可能性がある。
  • 細胞のクローン性増殖が見られる場合、アデノ随伴ウイルスの一部が細胞増殖に関わる遺伝子に挿入され、その発現が上昇している
  • 10年にわたって肝障害や肝がんの兆候は全くなく、また最後に遺伝子の挿入を調べる目的で安楽死させた犬の肝臓にも異常所見は認められなかった。

効果の持続期間が問題にされているアデノ随伴ウイルスベクターが、低いレベルではあっても10年近く導入遺伝子を作り続けているのは、私の先入観を覆し、この方法の大きなベネフィットとなる。しかし、ゲノムへの挿入がないと思っていたウイルスゲノムの一部が、高い確率で各細胞のゲノムに挿入され、場合によっては細胞の増殖能力を高めることは明らかにリスクといえる。ただ、10年にわたって臨床的には問題なく、治療効果も見られたことは、ゲノムへの挿入があり、細胞の生理に一定の影響があるとは言え、リスクの確率はかなり低いと結論できる。

アデノ随伴ウイルスを用いる治療のベネフィットとリスクは上のようにまとめられるが、この情報は、専門家以外の患者さんが遺伝子治療を受けるための決断には本当に十分だろうか?さらにアデノ随伴ウイルスベクターでゲノム挿入が起こるとすると、チンパンジーアデノウイルスを用いるワクチンでも、同じリスクはある。実際に投与するウイルス量は1万分の1なので、リスクの確率はさらに低くなるが、この論文から考えると決して0にはならない。とすると、今度は患者さんだけでなく、ワクチン接種に際してもリスクとベネフィットを天秤にかける決断が必要になる。

この決断に、専門家がオーソライズされた答えを出すことはできない。このような状況で必要とされる「共有される医学知識」とはなにか、結局患者さんや一般の方と考えていく必要があり、それがうめきた2期街づくり『参加型ヘルスケア』で行っていきたいと考えている。

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12月24日 ボノボは協力して同じ作業にコミットし合う社会性を有している(12月18日号 Science Advance 掲載論文)

2020年12月24日
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残念ながらまだその姿を見たことはないが、ボノボは類人猿の中で最も平和的で、人間の利他的行動や、道徳的な行動のルーツを探るために研究されている。山を歩いてボノボを探すほどの体力はもう残っていないが、是非コンゴに行ってサンクチュアリーで保護されているボノボを見てみたいと願っている。

今日紹介するスイスNeuchâtel大学からの論文は、ボノボ同士が示す、共同作業の質を調べた研究で12月18日号のScience Advanceに掲載された。タイトルは「Bonobos engage in joint commitment(ボノボは共同のコミットメントを行える)」だ。

タイトルにあるjoint commitmentはなかなか訳しにくい。例えば目的のために協力し合うことは多くの動物で見ることができる。時に、はっきりとした分業体制が見られる場合もある。しかし、ほとんどの場合、行動を支配する自発的脳のアルゴリズムにより、協力が自然に成立するケースが多く、私たちが協力を考える時に想定する、コミュニケーション、責任感、自由な役割設定などは全く存在しない。

タイトルのJoint Commitmentを行動学的に定義すると、1)目的と実現に向けたプランの共有、2)協同中の意図についての把握、3)コミュニケーション能力、そして4)自分の責任についての理解、の全てが備わった協力関係といえる。人間では3歳児ぐらいから明確なjoint commitmentが見られるのだが、他の類人猿に存在するかどうかは議論が分かれている。

この様な協力関係の質についての研究は、トマセロさんたちの研究が有名で、このHPにも言語の発達について述べた時(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)、獲物を順番に分け合う能力について調べた「One for you, one for me: human unique turn-taking skills(Melis et al, Psychological Science, 27:987, 2016 : http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177)という論文を紹介したが、この様な能力をより自然な状態で調べるのは簡単ではない。

この研究ではフランス・ロマーニュにある霊長類の自然動物公園で飼われているボノボ同士の毛繕いを、joint commitmentと仮定し、これが本当にjoint commitmentかどうかを、様々な方法で確かめている。

まず、片方、あるいは両方を食べ物で引き付けてcommitmentから中座させた時、また同じcommitment に戻るか、離れる時、戻る時どの様なコミュニケーションをとるかなどを調べ、

  1. 中座しても同じcommitmentに戻る確率は9割近く、それぞれ意図を共有している。
  2. 片方だけ中座した場合、特に毛繕いしている側は、自分の責任を理解した様に、様々なコミュニケーションのそぶりを見せる。
  3. Commitment再開後の役割は、中断された時と同じ役割につく。
  4. ランクが離れた間柄ほど、コミュニケーション行動は多く見られるが、同じcommitmentに戻る確率はランクには関係ない。

などなど、基本的には最初に述べた様々な条件を全て備えたCommitmentであると結論している。

論文を読むだけでは本当かなと思うところもあるが、この様な動物行動観察は、観察者にははっきり分かるがなかなか数値として表現できないことも多いと思う。これを思い入れと取るか、あるいは信用するかは読み手の問題だと思うが、私は信用する側に回る。

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12月23日 Covid-19侵入のゲート分子の転写調節(12月18日 米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2020年12月23日
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今週はACE2の転写に関する論文が3報も出ていた。Nature Genetics12月号に掲載された2報の論文は、1型インターフェロンにより誘導されるACE2は普通の分子ではなく、大きな欠損がありCovid-19とは結合しない分子であることを示した(NATURE GENETICS | VOL 52 | DECEMBER 2020 | 1283–1293, NATURE GENETiCS | VOL 52 | DECEMBER 2020 | 1294–1302)。最初の頃ウイルス感染により誘導されるインターフェロンでACE2が誘導されることで感染がさらに広がる心配があると懸念されたが、この心配はないことを示した論文だ。

今日詳しく紹介するのはミシガン大学からの論文で、男性ホルモンによるACE2とCovid-19の膜融合時に働くTMPRSS2の発現を調べた論文で12月18日米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Targeting transcriptional regulation of SARS-CoV-2 entry factors ACE2 and TMPRSS2(SARS-CoV-2の侵入に必要な因子ACE2とTMPRSS2の転写調節を標的にする)」だ。

これほど猛烈な勢いでCovid-19の研究や治療開発が進むと、各人の研究も知らないうちに時代遅れになってウカウカしておられない心配がある。その一つが、ウイルスが細胞へ侵入する時に使うACE2やTMPRSS2などの分子に対して作用する薬剤の開発だろう。というのも、ウイルス侵入阻害という点では、モノクローナル抗体治療が最も初期段階で優れている様に思うからだ。ただ、以前免疫が抑制されている白血病の患者さんでも、感染が鼻で止まって無症状のままウイルスを排出し続けた症例を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/14412)、感染が重症化へと進展する最初の段階は、肺の細胞への感染で、この段階の抑制は最初の重要な課題だが、この段階は予防と治療の境にある。すなわち、症状が出るか出ないかのうちに治療を始める必要があるだろう。とすると、抗体薬の可能性はもう少し進んだ段階に限られるので、コストの点および気道スプレーの様な使い方が可能な点で、ACE2やTMPRSS2の機能阻害や転写阻害に関わる薬剤もまだまだ捨てたものではなく、是非開発を続けて欲しいと思う。

この研究はACE2とTMPRSS2の発現を同時に阻害する、既に認可されている薬剤を特定することを目的としている。よく読んでみると、特に新しい発想があるわけではないが、この分野をまとめて考えてみるいい機会になった。

男性の高齢者が肺炎へ移行する確率が高いこと、さらには前立腺癌治療でアンドロジェン受容体阻害剤を使っている患者さんでは、感染率が低かったという論文から、アンドロジェンによりACE2やTMPRSS2の転写が調節されている可能性が示唆されている。この論文はこの可能性の再検討と言える。まず、AT2と呼ばれる肺胞細胞でアンドロジェン受容体とともにACE2、TMPRSS2が強く発現していることを確認する。後は、細胞株を用いたり、マウスを用いたり、雑然とした結果が続くので割愛して、人間についての結果だけを紹介すると、in situ hybridizationを用いた検討から、気道の ACE2、TMPRSS2、そしてアンドロジェン受容体の発現が男性で高く、また喫煙者ではアンドロジェン受容体はさらに上昇することを示している。最後に、細胞レベルの研究で、この3者の発現は、既にFDA認可されているアンドロジェン受容体阻害剤、あるいはエンハンサーとプロモーターを繋ぐコファクターBRD阻害剤で抑えられることを示している。

以上が結果で、いくつかの阻害剤を培養系で再検査したという以外、アンドロジェンとACE2の関係などは新しい話ではない。またデータの質は低く、可能性を指摘するために論文を書いたといった印象が強い。

ただ、現在治験が行われているTMPRSS2阻害剤も含めて、この様な薬剤をいつ使えばいいか考えてみるのは、抗体薬が利用できる様になった今、面白い様に思う。既に述べたが、Covid-19の場合、多くの人では鼻かぜで終わるが、進行するケースでの肺への進展の早さが問題になる。したがって、鼻から肺への進展を止めるとなると、予防と治療の境界領域を対象にする治療が必要になる。この段階の治療戦略は、例えば抗インフルエンザ薬を予防に使うといった話とは少し違っており、新しい構想が必要で、その意味で気道へのアプローチ可能な薬剤のリストを増やすことは重要だと思う。

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12月22日 制御性T細胞を特異的に増やすIL-2操作(12月16日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年12月22日
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かってサイトカイン研究は我が国の免疫学や血液学のお家芸で、この時代を作った研究者の多くは、現在も様々な分野で活躍している。今でこそチェックポイント治療で知られる本庶先生だが、私が独立して熊本大学にいる頃、IL-4やIL-5遺伝子のクローニングで華々しくサイトカイン研究の第一線を担っていた。当時この分野での本庶グループの大きな貢献の一つがIL-2受容体(CD25)の遺伝子クローニングだろう。

ただIL-2受容体はCD25にとどまらず、その後の研究でなんとα、β、γの3種類(現在では、CD25、CD122、CD132)の3種類が存在することがわかり、しかもαだけ、βγ、αβγの異なる組み合わせが、異なる細胞で発現して、下流のシグナルもかなり違うことがわかった。最初サイトカイン研究の1丁目1番地として応用が期待されたIL-2も、そのままだと多様な細胞に効果を示すことから、臨床応用が阻まれている。

この状況を変えるために、IL-2の構造を変化させてαに結合できなくして、刺激する対象を絞る方法が開発され、βγに特異的に結合して、キラー細胞だけを増殖させるIL-2が作成されている(https://aasj.jp/news/watch/9537)。もう一つの方法は、IL-2とそれぞれの受容体との接触部位に対する抗体を作成し、例えばαだけに結合する様に操作する方法だ。αはTregの最も重要なマーカーであることから、特にTreg選択的操作が可能になるのではと期待されている。事実、マウスではその様なモノクローナル抗体が開発され、Treg増殖に使えることが示されている。

今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は、ヒトIL-2がα受容体に選択的に結合できるモノクローナル抗体(mAb)を開発し、Tregを体内で選択的に増やすことができることを示した論文で12月16日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Receptor-gated IL-2 delivery by an anti-human IL-2 antibody activates regulatory T cells in three different species(IL-2に対する抗体を用いてIL-2結合受容体を制限することで3つの種でTregを活性化できる)」だ。

この研究ではなんと1万種類のIL-2に対するモノクローナル抗体を、それぞれの受容体の組み合わせを発現した細胞でスクリーニングし、αが発現している細胞だけにIL-2が結合する様になるmAbを選んでいる。

こうして選んだ数種類の抗体の中から、Tregの増殖を誘導する能力が高いmAbを選び、さらに詳しく検討すると、IL-2のγδへの結合を抑えるというだけでなく、IL-2がαに結合した後、すぐにIL-2から遊離してIL-2を直接αに受け渡せる能力がある抗体だけが、高い活性を持つことを示している。また、構造解析から、この可能性を確認している。

もともとαだけを発現している細胞へのIL-2の親和性は弱いため、このモノクローナル抗体は、IL-2を三種類の受容体全てを発現した細胞へ選択的に連れてきて、その後受容体にIL-2を完全に受け渡すことができる。もちろん、三種類の受容体を発現しているT細胞はTregだけではないが、この抗体とIL-2をマウスに注射すると、FoxP3陽性のTregが強く誘導される。

最後に、ヒトでも使える様に抗体をヒト化した後、試験管内でヒト末梢血と培養すると、FoxP3陽性のTregをかなり選択的に増殖させることができる。また、ヒトの代わりにサルに投与する実験を行い、強くTregの増殖を誘導できることを示している。

詳細はかなり飛ばしたが、以上が結果で、人間の体内でTregを選択的に増殖させる方法ができたのではと期待する。今やTregを疑う人はいないが、臨床応用となると様々なハードルがある。その一つ、選択的増殖に手がかかったことの意義は大きい。

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12月21日 インターフェロンγがガン免疫を誘導する理由(12月16日Natureオンライン掲載論文)

2020年12月21日
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ガン細胞を栄養代謝レベルで弱らせる戦略の開発が進んでおり、例えば断食と同じ効果がある1週間の食事プログラムを毎月続けるだけで乳ガンの治療効果が高まることを以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/13544)。さらにアミノ酸代謝になるとガンと正常の違いは大きく、ガンを弱らせるアミノ酸制限食の開発に期待が集まっている(今年6月にCell Metabolismに発表された総説は一読をお勧めする: Molecular Cell 78, 1034 ,June 18, 2020)。その一つがトリプトファン代謝で、IDO1酵素によりトリプトファンはT細胞免疫抑制分子Kynurenineに転換されて抗ガン免疫を抑えるため、トリプトファン制限により免疫を高める可能性が調べられている。

今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所とオランダ・ガン研究所からの論文は、トリプトファン欠乏により起こる翻訳異常を追求する中で、インターフェロンによりガン免疫が高められるメカニズムを解明した研究で12月16日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Anti-tumour immunity induces aberrant peptide presentation in melanoma(抗腫瘍免疫はメラノーマの異常なペプチド提示を誘導する)」だ。

既に紹介した様に、ガン免疫を抑制するKinurenineはトリプトファンからIDO1により合成されるが、このIDO1はガン免疫に関わるT細胞から分泌されるインターフェロンγ(IFNγ)により誘導される。すなわち、一種のフィードバック・チェックポイントが形成される。従って、IDO1を阻害してやればこのチェックポイントは無効になると考えられるが、実際には臨床的効果ははっきりしない。

事実IFNγには確実に抗ガン作用があり、Kinurenine誘導だけを考えると全体像は見えない。この研究ではIFNγによるトリプトファン代謝異常にガン免疫を高める効果がないか調べる中で、オランダ・ガン研究所のグループが開発した、アミノ酸欠乏により誘導される翻訳異常を調べるdiricoreと呼ばれる方法を利用しようと思いついた。

Diricoreはリボゾームのトンネル中に存在するmRNAだけを取り出して配列を決定する方法だが、アミノ酸欠乏で翻訳が止まるプロセスを解析するのに用いられ、ガンのアミノ酸代謝研究に大きな貢献をしている方法だ。もし、IFNγによりIDO1が誘導され、トリプトファン欠乏が起これば、当然トリプトファン特異的な変化がdiricoreで捉えられる。

実際、メラノーマをIFNγで処理すると、トリプトファンコドン下流で翻訳が停止することがわかる。ただ、IFNγで処理した場合、翻訳が止まるだけでなく、そのすぐ下流での翻訳停止が多発することを示す、彼らがW-bumpと呼ぶパターンが観察される。

詳しく調べると、トリプトファン欠乏で止まりかけた翻訳が、なんとかフレームを変化させて次のトリプトファンやストップコドンで止まるまで、翻訳を続けた結果であることがわかった。

とすると、次の翻訳停止までにできたタンパク質は自然には存在しないアミノ酸ということになり、当然ガンのネオ抗原として利用される可能性が浮かび上がる。これを調べるため、IFNγ処理した細胞の質量分析を行い、124種類のフレームがずれたペプチドが存在し、そのうち41種類は、偶然ではなく繰り返し現れることを示している。最後に、これらがガンのネオ抗原として働くことを細胞培養系で確かめている。

免疫に関与するペプチド解析はかなり綿密に行われており、割愛してしまったが、インターフェロンがkinurenineの合成と、ネオ抗原の誘導という、2面性を持つことを示した力作だと思う。ただ、kinurenine合成の問題は、トリプトファン制限により解消できるはずなので、癌の免疫療法を高めるという視点では、面白い論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月20日 miRNA分解の新しいモデルから分かるmiRNAの複雑性(12月18日号 Science 掲載論文)

2020年12月20日
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分野を問わず科学論文を楽しもうとこのコーナーを始めて8年近くになり、紹介した論文も3000に近づいているが、嫌っているわけでは無いが紹介するモチベーションが湧きにくいエアーポケットの様な分野が存在する。その一つがmiRNAで、ノーベル賞も与えられた重要分野だとはわかっていても、ほとんど取り上げてこなかった。その理由は、一つ一つのmiRNAは多数の標的を持つため、その効果がわかりにくい点があった。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、それ自身は面白いが、miRNAの調節機構の複雑性を示し、またmiRNAを敬遠する原因になるのではと感じる研究で12月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「The ZSWIM8 ubiquitin ligase mediates target-directed microRNA degradation(ZSWIM8ユビキチンリガーゼは標的特異的マイクロRNA分解を媒介する)」だ。

生命科学の知識がある人なら、このタイトルを見るだけで「ナニナニ?ユビキチンリガーゼがmiRNAの分解に関わるだと?」、と惹きつけられるだろう。タンパク質分解システムがなぜmiRNA分解に関わるのか?それを知ろうと読み進めると、miRNAはもともと細胞内で寿命が長く、しかもmiRNAごとにその寿命が異なっている。極端な例だと1週間も細胞内で安定に存在するものがある様だ。

寿命が長い理由はmiRNAが標的RNAを分解するためArgonauteに結合すると、最終的な分解はmiRNAを分解するための特異的なシステムが存在することがわかっていた(私にとっては初耳)。

この研究ではmiRNAのなかのmiR-7に絞って、この分解のスイッチを入れることがわかったlong noncoding RNA CYRANOと協調する分子を探索し、最終的にZSWIM8を特定、この分子の機能をとおして、miRNAの分解機構を調べている。

膨大なプロの仕事で、ほとんど割愛するが、基本的にはCYRANOと結合したmiR-7の5‘末に伸びたRNAをZSWIM8が認識して、ここにユビキチンリガーゼシステムをリクルートし、Argonoutをユビキチン化して分解することを示している。その結果、Argonoutに守られなくなったRNA はすぐに細胞内で分解されてしまうことを示している。すなわち、miRNAを分解するために、なんとそれを守っているタンパク質、Argonoutを分解するというわけだ。

ただ、このシステムが動きうるmiRNAは、全体のほんの一部で、ショウジョウバエや線虫も入れて高々33種類しか無い。他のRNAは全く別のシステムで分解されているよで、これがmiRNAの寿命が極めて多様な原因の一つになっている。

しかし、RNAを認識するタンパク質を分解するこのシステムは、うまくいけばクリスパーの様に、タンパク質を特異的に分解する面白い系に発展できるかもしれないし、さらにRNAワクチンの効果を高める方法にもつながるかもしれない。これほどの複雑性がわかりmiRNAに対する印象はますます悪くなったが、研究自体は大変面白かった。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月19日 うつ病に対するケタミンの作用メカニズム(12月16日 Nature オンライン掲載論文)

2020年12月19日
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麻酔に使うより少し低い量のケタミンを投与すると、うつ病症状を1週間程度抑えることができ、生理学的研究が進んでいる。このブログでも、2回にわたって紹介しているが、重要なのはケタミンが神経軸索のスパインの数や構造の変化を伴う可塑性に関わっている点だ(https://aasj.jp/news/watch/3687)。

今日紹介するカナダ・マクギル大学からの論文はこの可塑性の変化がなんとmTORCを介する翻訳機構の変化を介して起こっていることを示した研究で、12月16日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Antidepressant actions of ketamine engage cell-specific translation via eIF4E (ケタミンの抗うつ作用はeIF4Eを介する細胞特異的翻訳に関わる)」だ。

もちろんケタミン自体はNMDA受容体の阻害剤として麻酔効果を及ぼすことは知られているが、抗うつ作用はケタミン由来の代謝物hydroxynorketamin(HK)が低い親和性でNMDA受容体に結合する結果だと考えられる様になっている。さらに、このHKの抗うつ作用がmTORCの阻害剤であるラパマイシンにより阻害することも明らかになり、さらに下流シグナルを探索する研究が進んできた。

この研究では様々なmTORCの作用のうち、もともとシナプス可塑性に関わることが知られていた4E―BPリン酸化制御によるmRNA翻訳開始機構がケタミンの抗うつ作用の標的分子ではないかと構想し、3種類ある4E-BPファミリー分子のうち脳で発現しているBP1とBP2をそれぞれノックアウトしたマウスで、ケタミンの作用を調べている。

結果は予想通りで、マウスの動きが落ちる状況で(これをうつ状態としている)ケタミンを注射すると、動きが回復するが、BP1、BP2いずれをノックアウトしたマウスでもこの回復が見られなくなる。一方、セロトニン阻害剤注射に対しては、正常もノックアウトマウスも全く同じ程度に反応する。

これはケタミンの代わりにHKで刺激した時も同じで、ケタミンの抗うつ効果は、これまで考えられてきた様に、ケタミンの代謝物がNMDA受容体を弱く刺激した結果、mTORCを介してmRNA翻訳を変化させ、この結果シナプスの可塑性が変化する結果であることを示唆している。

この研究では興奮神経細胞、及び抑制性介在神経細胞それぞれでBPをノックアウトする実験も行い、HKの効果には両方の細胞が必要で、これらのシグナルは興奮、抑制両方の神経の代謝変化を誘導することで、長期のシナプス可塑性を高め、うつ状態に抵抗力を与えることが明らかになった。

以上わりと単純な研究だが、病態、生理学、生化学を結合させる重要な研究で、今後これまでとは異なる新しい抗うつ薬を開発するために役立つのではと期待する。もう一つの新しい抗うつ治療、脳の電磁場刺激などと組み合わせて考えるとさらに面白い可能性が生まれるかもしれない。

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