細菌叢は私たちの健康に様々な恩恵をもたらしてくれているが、逆に細菌叢から分泌される分子により代謝が変化したり、時によってはガン化や脳の活動にまで影響を持つことが知られてきた。それならば、細菌と並んで我々の体に常在している真菌でも同じことが起こっているのではないかと考えるのはもっともだ。
今日紹介するニューヨーク大学からの論文はすい臓ガンと真菌との関わりについて研究し、一部の真菌がすい臓ガンの増殖を促進するメカニズムを明らかにした研究で10月3日号のNatureに掲載された。タイトルは「The fungal mycobiome promotes pancreatic oncogenesis via activation of MBL (真菌のマイコビオームがMBLを介してすい臓ガン化を促進する)」だ。
この研究は、膨大なスクリーニングを行なって原因を見つけるというより、最初から仮説を立ててその真偽を確かめるという方法で行われている。
まず真菌がすい臓ガンの増殖に影響を及ぼしうることを示すため、経口標識した酵母をすい臓ガン発ガンモデルマウスに投与、ガン組織に到達することを確認している。つぎに、すい臓ガンモデルマウスと正常マウスを比べ、すい臓ガン発症過程で腸内の真菌叢が質量ともに変化すること、一方すい臓では真菌叢の種類は大きく低下する一方、真菌の量は増えることを発見する。
そしてすい臓ガンで最も大きな増加が見られるのが皮膚にも常在するマラセチアであることを発見する。
この研究の重要性は、真菌叢が変化するといった現象論だけでなく、ある程度の因果性を示している点だ。まず、すい臓ガンモデルマウスに抗真菌薬を投与すると、がんの増殖が強くはないが抑えられる。また抗真菌薬で真菌を除去したマウスにマラセチアを投与すると、増殖が高まる。以上のことからマラセチアをはじめとする真菌が明らかにすい臓ガンの増殖を助けていることを明らかにする。
そして最後にすい臓ガンに発現しているレクチンがガンの増殖を助けるのではと仮説を立て、マンノースに結合するレクチンをノックアウトするとすい臓ガンの増殖が抑制されること、またこのノックアウトマウスではマラセチアの増殖促進効果がないことを明らかにする。その上で、補体C3aの活性化がガンの増殖に関わる下流のシグナルであることを特定している。
真菌がすい臓ガンの増殖に関わることは納得できるが、しかしこの研究だけではこれがガン化の決定要因かどうかについては明らかになっていない。真菌叢だけのないマウスを作るのは難しいと思うが、例えば無菌動物だと発ガンは低下するのかなど、他にも知りたい情報が多い研究結果だと思う。