京大の小川さんたちや、他のグループによって骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)のゲノム解析が進んだ時最も驚いたのは、例えばFltといった常識的なガンのドライバーの他に、スプライシング(SRSF2)やエピジェネティック(IDH2)に関わる遺伝子変異が多くの白血病で発見されたことだ。これを見た時、一つの癌遺伝子の異常というより、多くの分子が変化した状態が作られてしまうのかと、ガン化過程の難しさを感じた。
今日紹介する米国スローンケッタリング研究所からの論文はSRSF2とIDH2という本来あまり接点のない二つの分子の協調性について調べることでMDS/AMLの発ガン機序を解析したこの分野では重要性の高い研究で10月2日号のNatureに掲載された。タイトルは「Coordinated alterations in RNA splicing and epigenetic regulation drive leukaemogenesis (RNAスプライシングとエピジェネティックの協調的調節が白血病化を推進する)」だ。
この研究ではAMLで効率にSRSF2 とIDH2の両方に変異があることに着目し、白血病化に両者が協調しているのかどうか、トランスジェニックモデルや変異のノックインモデルを用いて解析し、骨髄異形成を伴う白血病化には単独の変異では不十分で(IDH2のみでは白血病化は見られるが骨髄異形成は起こらない、一方SRSF2変異による白血病細胞は移植が難しい)、両方の変異が同時に必要であることを確認した後、一見接点のない両方の変異がどう協調するのかを調べている。
まず考えやすい可能性として、IDH2によるメチル化の促進を抑えるTET2の機能がSRSF2の変異によるスプライシング異常で低下する可能性や、逆にIDH2による遺伝子発現抑制によりRNAメチル化に関わるFTOなどの酵素の働きた低下し、異常なスプライシングが増える可能性を調べているが、これだけではこの協調作用を説明できないと結論している
そこで、両方が協調することでスプライシングやDNAメチル化が変化する可能性を調べている。通常とは異なるスプライシングをうけた(エクソンが増えたり欠損した)RNAの数を調べると両方の変異が共存すると、SRSF2だけの変異の倍の数のスプライスRNAが生成される。すなわち、両方の変異が存在することで普通には存在しないスプライシングRNAが生成される。そしてこれが、IDH2依存的にDNAメチル化がスプライシングに必要なサイトをメチル化する結果であることを発見する。
そしてRNA解析から分かってきた白血病に関わることが知られているINT3(Notch4)のスプライシングを調べると、IDH2変異によりINT3の特定のイントロンがメチル化され、これが変異型のSRSF2により短い機能が欠損したINT3を形成することを発見する。すなわち、IDH2の変異とSRSF2の変異が協調して初めてINT3の機能阻害が達成されることを示した。。また、現在MDSに用いられるメチル化阻害剤5AZを投与すると、異常INT3は発生しない。また、両方の遺伝子が欠損していても、完全なINT3cDNAを導入すると白血病が正常化することも示している。
もちろん全ての過程がINT3 機能欠損によると決めるわけにはいかないが、SRSF2とIDH2がどのように協調しているのかだけでなく、現在使われている治療についても頭の整理がつく重要な研究だと思う。