過去記事一覧
AASJホームページ > 2019年 > 10月 > 18日

10月18日 なぜスモーカーに糖尿病が多いのか (10月16日号 Nature オンライン掲載論文)

2019年10月18日
SNSシェア

タバコをやめるとメタボになるのは経験済みだが、タバコを吸っている人の方が2型糖尿病が多いという話は私も知らなかったし、それほどポピュラーな話ではないのではないだろうか。ただ、いくつか論文はあるようだ。

今日紹介するニューヨーク・マウントサイナイ医科大学からの論文はラットを用いてニコチンと糖尿病の関係を解析した研究で10月16日号のNatureにオンライン出版された。タイトルは「Habenular TCF7L2 links nicotine addiction to diabetes (脳内側手綱核のTCF7L2はニコチン中毒と糖尿病を結びつける)」だ。

この研究は、脳幹部の内側手綱核でまさに翻訳されつつある遺伝子を調べていたところ、TCF7L2がコリン作動性の神経に強い発現が認められるという発見がきっかけになっている。

内側手綱核はこれまでの研究でニコチン中毒に関わることが知られている。一方タイトルにあるTCF7L2は遺伝子発現を調節する転写因子の一つで、インシュリンの分泌を促すことが知られており、糖尿病に関連する遺伝子の代表として知られている。そこで、著者らはひょっとしたらTCF7L2がニコチン中毒に関わるかも知らないと着想したのだと思う。

TCF7L2のβカテニン結合サイトを変異させたマウスを用いてニコチンに対する反応を調べると、正常マウスと比べニコチンを入った水を多く飲むようになる。また、クリスパーを用いて手綱核でのTCF7L2をノックアウトすると、やはり同じようにニコチンへの嗜好性が高まる。しかし他の嗜好性は変わらない。すなわち、ニコチン中毒が出たことになる。

この実験系で、糖尿病に関わる様々な因子の手綱核への影響を調べると、GLP-1をブロックするとニコチン嗜好性は低下するが、インシュリン自体は影響がないので、GLP-1が直接手綱核に働いて複雑なネットワークを作っていることを示している。

詳細は省くが、次に生理学的検討を行い、TCF7L2は手綱核のcAMPシグナルを抑制して、アセチルコリン受容体の刺激後の回復を遅らせる結果、TCF7L2の機能低下によりニコチン中毒が発生すると結論している。そして手綱核と糖尿に関して検討し、

  • 手綱核の刺激は交感神経を介して血糖を高めること、
  • GLP-1は手綱核のTCF7L2の発現を高めて、ニコチンの影響を抑えること、

を明らかにしている。

最後に、ニコチン中毒ラットを作成して、

  • ニコチン中毒では、血糖が低下した時に見られる炭水化物への欲求が更新すること(Carb cravingとして知られる)、
  • 血糖自体も手綱核のアセチルコリン受容体の作用を抑制して、フィードバックをかけること、
  • ニコチン中毒ではインシュリンやグルカゴンの分泌が高まっていること、
  • そして慢性中毒ラットでは血糖が上昇することを示している。

以上が結果で、手綱核がニコチン刺激と血糖や、GLP-1刺激のハブとして複雑なネットワークを形成しており、その結果ニコチン依存が高まると糖尿病の危険が高まることも理解できた。

カテゴリ:論文ウォッチ
2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031