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10月22日 CRISPRを用いてガンのネオ抗原の発現を高める(Nature Immunology オンライン形成論文)

2019年10月22日
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チェックポイント治療を確実なものにする鍵は、いうまでもなくガン抗原に対する免疫を成立させることだ。この方法の開発は、今や百家争鳴と言えるほど創意に満ちており、それぞれいつでも実際の臨床に使われてもいいといった技術が目白押しだ。

今日紹介するイェール大学からの論文はCRISPRを用いてネオ抗原の発現量を高めるという、これまで考えられているネオ抗原からペプチドワクチンを作成したり、あるいはRNAワクチンを作成するのとは全く違った面白い発想で、Nature Immunologyオンライン版に掲載された。タイトルは「Multiplexed activation of endogenous genes by CRISPRa elicits potent antitumor immunity (遺伝子活性クリスパーにより内因性遺伝子を多元的に活性化することで強いガン免疫を誘導できる)」だ。

この研究ではクリスパーを遺伝子ノックアウトや改変に使うのではなく、特定のゲノム上で遺伝子発現を活性化する方法として用いている。実際には、ウイルスの持つ遺伝子活性化分子VP64をCas9(DNA切断能力を除去してある)に結合させて、この分子をガイドRNAで転写させたい遺伝子に連れてくることで、遺伝子発現を高める技術を用いている。

まずニワトリのアルブミン遺伝子をネオ抗原に見立てて、この発現を高めることで免疫原性が高まりガンを抑えることができることを様々な実験で確かめている。例えば培養したガン細胞の抗原発現を高めることで、ガン細胞自体をワクチンとして使えることも示している。

このような一連の検討をモデル抗原で行なった後、次にCas9―VP64をあらかじめ導入したガンを移植し、このガンが発現しているネオ抗原をガンが発現している遺伝子の突然変異をエクソーム解析で調べ、この結果から設計した1000種類を超すガイドRNAをアデノ随伴ウイルスベクターでマウスに注射することでガンの免疫を高めることができることを示している。

そして最後に、Cas9―VP64とガイドRNAをそれぞれ別のベクターで、未処理のガン細胞に導入することで、、同じようにガンの増殖を抑制できることも示している。

その上で、この方法で誘導されたガン抗原特異的T細胞は長期にガン局所で、抗原反応性を失うことなく維持されること、またエクソームによる変異解析から設計したガイドを用いると、特定の抗原受容体を持ったT細胞が増えること、そしてガン局所のT細胞が強く活性化の方向へ再プログラムされていることを単一細胞遺伝子発現を調べて示している。

結果は以上で、ワクチンを新たに作るのではなく、ガン自体のネオ抗原の発現を高めてやることでガンのネオ抗原を網羅的にカバーして免疫を誘導できるという話で、今後様々な応用が可能だと思う。実際の臨床応用を考えると、エクソーム解析からガイドの設計、ベクターへのクローニングまでどの程度の時間がかかるかが問題になると思うが、クリスパーもこんな使い方があったのかと感心した。

カテゴリ:論文ウォッチ
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