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10月31日 肝硬変に見られる遺伝子変異(10月24日 Nature オンライン版掲載論文)

2019年10月31日
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単一あるいは少数の細胞のゲノムを詳しく解析することが可能になってわかったことは、前癌状態は言うに及ばず、正常組織でも、突然変異の蓄積と、変異を持った細胞同士の競合により、増殖力の高い細胞に組織が置き換わっているという発見だ。しかしこの段階から実際のガンが発生するまでにはかなり大きの変化が必要であることもわかってきた。このため、ガンに至るまでのできるだけ多くのステップを特定してそこでの変異を調べることが重要になる。

その意味で肝硬変は同じ組織にガンと硬変巣が同時に存在する確率も高く、また肝硬変での細胞障害とそれを埋める増殖の繰り返しがガン発生に必須の過程と考えられていることから、前癌状態からガンまでの過程を調べる目的にかなっている。

今日紹介する英国サンガー研究所からの論文は、アルコール性、非アルコール性の肝硬変組織切片から様々な場所を切り出し、それぞれのゲノムを調べ、肝臓ガンと比べた研究で10月24日号のNatureに掲載された。タイトルは「Somatic mutations and clonal dynamics in healthy and cirrhotic human liver (正常および肝硬変の組織の突然変異とクローン動態)」だ。

研究では5人の健常人、9人の肝硬変の患者さんの組織から100−500個ぐらいの塊を顕微鏡下で切り出し、突然変異解析を行い、同じ組織で見つかった肝臓ガンおよび、一般の肝臓ガンのゲノム解析と比べている。

基本的には解析した遺伝子配列の解析の問題なので詳細を省いて、重要な点だけを列挙すると次のようになる。

  • 中年以上の肝臓では正常組織でも1000を超す様々な変異が存在するが、大きな変異は肝臓では起こらない。
  • これと比べると肝硬変組織では場所と組織によるが、点突然変異、欠失挿入、そして大きなコピー数の変化まで変異の数が倍近くになる。しかし、ガン細胞と比べると変異数はまだ半分以下にとどまっている。
  • 30種類のガンのドライバーやガン抑制遺伝子を選んで、各部位内、部以外との関係を調べると、他の組織と様々なガン遺伝子の変異がすでに始まっているが、特定のクローンが増殖している様子は認められなかった。ただ、膵臓ガンで高頻度に見られるクロモスプリシス(http://aasj.jp/news/watch/5918)が、肝硬変のプロセスでも起こることがわかった
  • 突然変異の原因は、ガンと同じで細胞の増殖時のエラーや、転写時のストレスなどが存在するが、多くの症例で様々な外因性の因子により誘導された変異が見られる。例えば、ポーランドから来た患者さんではアリストロキア酸の汚染による変異が見られたり、あるいはアスペルギールスに対するアフラトキシンの毒性による変異も認められている。中には、B細胞が増殖して紛れ込んできたため、極めて多くの変異が存在するクローンが見つかることもある。
  • 肝硬変巣にはTERTの変異は認められないが、肝ガンでは認められるので、重要なドライバーの一つはテロメアの調節と考えられる。

以上が結果のまとめだが、結果から見えるのは肝硬変から肝ガンまでの道のりは長いことだろう。正常でも年齢とともに変異が積み重なるが、肝硬変が始まると増殖依存性の変異をはじめ様々な変異の蓄積が始まる。ただ、肝ガンに発展するのはほんの一部で、肝硬変はまだまだ前癌状態と呼ぶには役者不足という結論だろう。

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