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10月17日 シナプスタンパク質のリン酸化のリズム(10月11日号 Science 掲載論文)

2019年10月17日
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田中耕一さんがノーベル賞に輝いた質量分析の分野は、地味とはいえ生命科学に大きな変革をもたらしている。例えばDNAが完全に分解してしまう恐竜時代のコラーゲンのアミノ酸配列を調べることが可能になり、古生物学や考古学に新しい分野が生まれている。同じように、様々な修飾を受けたタンパク質の定量も可能になり、これまで発現量のみで調べていた細胞内のグローバルな変化を、修飾タンパク質にも広げることができるようになった。

今日紹介するドイツ・ミュンヘンにあるルードヴィヒ・マクシミリアン大学からの論文は、質量分析技術をリン酸化タンパク質の定量に応用して、脳活動とタンパク質のリン酸化との関係を詳しく調べた論文で10月11日号のScienceに掲載された。タイトルは「Sleep-wake cycles drive daily dynamics of synaptic phosphorylation (睡眠と覚醒のサイクルが毎日のシナプスリン酸化の動態を支配している)」だ。

この研究のハイライトは12時間おきに繰り返す夜と昼のサイクルに合わせて、多くのタンパク質がリン酸化のレベルを変化させるという発見に尽きる。タンパク質でみると1600近く、リン酸化されるペプチドでいうと7200を越すサイトがリン酸化のサイクルを繰り返している。実際の図でみると本当に美しい。

また、リン酸化のサイクルも脳の活動をしっかりと反映している。これから覚醒するという時には細胞接着(シナプス)、イオンチャンネル、トランスポーター、水酸化酵素、リン酸化酵素などがリン酸化を受け、これからの電気活動に備える。一方、これから眠るという時には、軸索の伸長、細胞骨格、ユビキチン化、シナプスの細胞学的変化に備えるのにうまくフィットしている。

また、もともと500しかないリン酸化酵素のうち実に128種類が同じようなリン酸化のリズムを刻み、そのうちの65%は活動期にリン酸化される。しかもこのリン酸化のリズムはほとんどがシナプスに限定して起こっている。

最後にこれが遺伝的な概日リズムか、覚醒と睡眠行動にリンクしたものかを、マウスの眠りを妨げる実験で調べ、ほとんどが覚醒・睡眠の実際の行動にリンクしていることを示している。

話はこれだけで、データを見ていると美しいなと納得するが、よく考えると何も驚くことはないという論文だった。できれば、夜と昼で行動性が逆になっている動物などで同じような実験をして加えてくれればと思うが、まあこれだけはっきりしていると現象論でもいいだろうと許してしまう。とはいえ、何がこのリズムの引き金か、やはりフラストレーションは残る。

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