免疫系の発生初期から腸内細菌叢が反応のバランスを調整することがわかってきたが、この中で不思議なMAITと名付けられたT細胞も浮き上がってきた。MAITはmucosal associated invariant T細胞の略で、腸内で細菌が作るビタミンB2前駆体を結合したMR1マイナー組織適合性抗原に反応して増殖することが知られている。重要なのは、MAITはこの抗原だけで誘導され、抗原非特異的に多発性硬化症、1型糖尿病をはじめとする様々な自己免疫反応を抑制してくれることで、増殖のための抗原特異性が決まっているので、うまく調節すれば臨床的な価値も高い。
ただMAITという名前から、腸内で分化するのかと思っていたが、今日紹介するフランス・キュリー研究所からの論文はこの細胞が胸腺内で発生するだけでなく成熟して末梢に出ていくことを示した研究で10月25日号のScienceに掲載された。タイトルは「Microbial metabolites control the thymic development of mucosal-associated invariant T cells (細菌由来の代謝物がMAITの胸腺での発生を調節している)」だ。
MAITは腸内細菌叢のB2前駆体依存的に発生してくるので、腸内細菌の存在しない無菌マウスを腸内細菌叢の存在するマウスと一緒に飼育し始めてMAITの数を調べると、まず胸腺でMAITが増殖し、さらにIL17を産生する細胞への分化も胸腺内で起こることが明らかになった。
すなわち、バクテリアが作るB2前駆体が血中を通って胸腺に到達し、MAITの発生分化を促すことになる。実際、B2前駆体合成経路のないバクテリアを植えてもMAITは増殖しない。以上のことから、胸腺内にはB2前駆体を補足してMR1とともに提示してMAITを刺激する細胞の存在があることを示唆している。
そこで様々な組織の細胞を採取してMAITを刺激すると、胸腺細胞が最も刺激能力が高いこと、そしてこの理由は未熟T細胞であるdouble positive細胞が最もB2前駆体提示能力が高いことを明らかにしている。また、皮膚にB2前駆体を貼り付ける実験でも同じように胸腺細胞はMAITを刺激できることから、腸内細菌叢で作られたB2前駆体が循環を通って胸腺に入り、そこで発生分化を誘導することを証明している。
ただ、B2前駆体だけを無菌マウスに注射するとMAITは除去されるので、おそらく細菌が産生する他の因子と一緒に胸腺に到達した時、抗原としてMAITの発生分化を刺激すると考えられるが、この因子が何かを特定できていない。
以上の結果から、胸腺内のMAIT発生分化をコントロールする可能性は少し見えてきたように思える。もともと細菌とともに暮らす私たちなのでもう一つの因子は満ち足りていると思える。とすると、皮膚にB2前駆体パッチを貼り付ける方法でMAITを増やし、自己免疫病を抑えることも可能になるかもしれない。