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10月11日 RNAワールドの誕生(10月4日号 Science 掲載論文)

2019年10月11日
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有機物のない地球に有機物をもたらせたのは宇宙からきた彗星で、このロマンを明らかにすべく彗星や隕石を調べるという話を聞くが、これは私にとってはバカな戯言でしかない。地球上に存在していないからと言って、他の天体に求めるのは、神に生命誕生を委ねるのと同じだと思う。

ただ心配することはない。現在では多くの優秀な有機化学者が、生命がまだ存在しなかった地球で有機物がどう合成できるか研究している。少し古くなってはいるが、この分野の研究については「8億年前地球に生物が誕生した:Abiogenesis研究を覗く。」(http://aasj.jp/news/lifescience-current/10778)を是非読んでいただきたい。ほぼ全ての有機物を、生命の力を借りることなく、メタンやアセトン、アンモニア、炭酸ガス、酸素など、生命誕生前の地球に存在した分子から合成できることを確信してもらえると思う。

とはいえ、可能性を現実にするのはそう簡単でない。例えばRNAワールド誕生に必須のピュリン(アデニンやグアニン)、ピリミディン(シトシンやウラシル)を十分量合成することはなかなかできなかったが、John Sutherland,やテロメアでノーベル賞に輝いたJack Szostakなどのこの分野の大御所により、ピュリンやピリミジンの酵素によらない(prebiotic)合成が可能であることが示された(http://aasj.jp/news/watch/9486も参照)。

今日紹介するミュンヘンのルードヴィヒ・マクシミリアン大学を中心とするグループは、ピュリンとピリミジンを同じ場所で合成することが可能な条件を提案したさらにRNAワールドに近づいた研究で10月4日号のScienceに掲載された。タイトルは「Unified prebiotically plausible synthesis of pyrimidine and purine RNA ribonucleotides (Prebioticな地球で可能なピリミジンとピュリンRNA リボヌクレオチドの統一的合成)」だ。

研究では当時の地球に必ず存在したという、RNA合成までのスタート分子から中間体、そして最終産物まで一つ一つ合成する条件を一歩一歩構想するとともに、実際可能か化学合成を行うことを繰り返している。この研究ではシアノアセチレートを最も重要なコンポーネントにおいて、RNAまでのプロセスを構想することから始め、最終的に一本の試験管の中でピュリンとピリミジンの同時合成に成功している。ただ有機化学の苦手な私なので、詳細は省かせてもらって、この研究から太古の地球で起こっていたと提案されたシナリオを紹介することにする。

最も特徴的なのは、全ての反応が水が多い条件と、乾いた条件を繰り返すことで進む点で、その間に必要な中間体のみが自然に残るようになっている。まず水が多い条件でシアノアセチレンを中心に、aminoisoxazoleが合成され、これが乾いて濃縮されnitoroso-pyrimidineができる。この分子は沸点が高いので、温度が上がって他の分子が飛んでも、その場所に残る。そこに水と尿素が供給されると、nitorosopyrimidineが沈殿してaminoisoxazoleと分離、分離したままaminoisoxazoleとformamidopyrimidineが合成され、それぞれ乾いた条件でリボースと結合し、それに水がまた供給されると両方のタイプのRNAができあがる。ここからRNAワールドまでは極めて近いことがわかっており、私のような有機化学の素人でも、地球上での生命誕生は可能だと確信できる。

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