2回の分裂を繰り返す間に片方の染色体だけを持つ配偶子を形成する減数分裂は真核生物に共通の過程だが、この過程は極めて多様で、哺乳動物の場合オスとメスで大きく異なっている。精子形成では生後精母細胞が2回連続して分裂する過程で4個の配偶子が作られるが、卵子の場合はもっと複雑だ。発生期に1回目の分裂が始まっているが、途中で止まり、生後排卵可能になると分裂が完成するが、片方の染色体は極体にしまいこまれて配偶子になれない。この過程で卵子は排卵されるが、その後第二減数分裂は途中で停止した後受精により完成するようになっている。この複雑な過程がうまくいかないと染色体の数の異常(Aneuploidy)が起こり受精しても発生しない。
今日紹介するコペンハーゲン大学からの論文はこのようなAneuploidyの発生が人間の妊娠可能期間を決めていることを示した研究で9月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「Chromosome errors in human eggs shape natural fertility over reproductive life span (ヒトの卵子の染色体エラーが生殖期全般の生殖可能性を決めている)」だ。
恥ずかしいことに、なぜヒトは思春期以後から更年期までと生殖可能期間が決まっているのか考えたことがなかった。確かに排卵が始まっても必ずしも妊娠できるわけではなく一定の成熟期になって初めて妊娠できる。その後妊娠可能性は年齢とともに低下するが、この原因も排卵の問題として片付けていた。この論文を読んで初めて知ったが、チンパンジーは全く異なり、排卵とともに妊娠可能性が決まるらしく、排卵とは別に妊娠可能期間があるのは人間だけなようだ。そして、これを説明する考えとして、Aneuploidyの頻度が未成熟では高く、また高齢者でも高くなるため、排卵とは別に妊娠可能期がヒトでは存在するという仮説があったようだ。
この研究では抗がん剤治療を行うときにあらかじめ生殖細胞を保存する際に得られる卵巣内の卵子の一部を利用して染色体異常を調べることで、この可能性を9歳から43歳の女性の卵子について調べている。結果は予想通りで、成熟前も成熟後もヒトの場合Aneuploidyが高く、これが生殖の成功を抑えていることがわかった。また、受精後の着床前胚36000を調べたデータベースでも、年齢によりAneuploidyが生殖可能性に比例して変化することを確認する。言い添えるが、これが可能になるのも、次世代シークエンサーによる単一細胞のゲノム解析が可能になったからだ。
減数分裂異常には、non-junction(NJ)と呼ばれる染色体が極体に分配されず数が多くなるもの、早く染色体の分離が起こる異常(PSSC)、そしてreverse segregation(RS)と呼ばれる減数分裂が終わる前にsister chromatidが完全に分離しているタイプの3つに分かれるが、NJは若年期にのみ見られる異常で、PSSCとRSが年齢とともに上昇する異常のタイプであることを発見する。
また染色体ごとに異常の出方は異なっており、13番染色体では全てのタイプの異常が見られるが、大きな染色体ではNJが多く、逆に短腕の短い染色体では高齢者のPSSCとRSが多い。
最後にこの原因を形態的にsister chromatidの分離の程度を調べる方法で測定し、年齢とともに中心体と染色体全体の結合力が年齢とともに低下することで、分離NJが若年で多く、分離しすぎる異常が年齢とともに増えることを示している。
様々なコホートが国のサポートで進んでいるデンマークならではの研究だが、染色体異常を整理する意味では大変優れた論文で、実際に一読されることを進める。