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気になる治験研究 4 学校教育で使える健康的な食に関するビデオ

2020年1月17日
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考えてみると、私たちの子供時代は「食べること=善」で、裕福な家庭は別にして、おそらく不健康な食というと、好き嫌いなどの、食べないことだったと思う。しかし現在、子供の周りの食環境は大きく変わって、食べることによる肥満などの様々な問題が発生し、「健康な食」を自分で選ぶことの重要性が認識されている。

この問題を学校教育として解決できないか調べた治験研究がJ.Nutr Educ Behav 11月号に掲載されたので紹介する。

この治験では、子供に公共テレビとして制作された、健康な食を用意するクッキング番組を学校で見ることが、その後の子供の食べ物の選択に好影響を及ぼすかを調べている。

実際には、異なる5カ所の小学校の中から8クラス、10〜12歳の学童を選んでいる。この8クラスを無作為的に、健康な食を用意するクッキング番組を見せるクラスと、食とは関係のないクイズ番組を見せるクラスに分け、それぞれの番組を見た後4種類の食べ物のうちどれを選ぶか調べている。結果は期待通りで、健康な食に関するビデオ番組見たクラスの子どもが健康な食を選ぶ確率がずっと高まる。

おそらく、一人でビデオを見て学習するより、仲間と一緒に正しい食について習うことの方が影響が大きいのだろう。教育の場の重要性を示す、子供の感受性をよく理解した面白い治験研究だと思う。

1月17日 βアミロイドによるTauリン酸化のメカニズム(1月15日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月17日
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以前のジャーナルクラブで紹介した様に(https://www.youtube.com/watch?v=SGUDm0h184c)、アルツハイマー病の引き金は切断されたアミロイドβ(Aβ)の凝集塊の蓄積による場合が多いと推定されるが、実際の神経視野症状にはタウタンパク質のリン酸化と凝集が関わると考えられている。もしこれが正しいと、Aβとタウのリン酸化をつなぐメカニズムを明らかにする必要がある。

今日紹介するアラバマ大学からの論文はまさにこの問題に取り組んだ研究で、もし正しいならもう少し騒がれてもいい気がすると思う結果で、1月15日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「β-amyloid redirects norepinephrine signaling to activate the pathogenic GSK3β/tau cascade(βアミロイドはノルエピネフリンシグナルをタウからGSKβの以上シグナル経路を活性化する)」だ。

これまでアルツハイマー病(AD)で睡眠が障害されたり、攻撃性が高まる症状と、ノルエピネフリン(NE)受容体の活性化が関係するのではと考えられてきたが、今日紹介する論文はこの活性化に凝集Aβが関わることを示している。

まずAD患者さんの剖検例から脳組織を採取し、NE受容体活性が上昇していること、またNE受容体刺激剤を投与された患者さんでは、認知機能が低下していることを示している。ただ、統計学的に優位とはいえ、重なりは多く、人間のデータだけでははっきりしない。

そこでAβを発現させたマウスADモデルの脳でNE受容体刺激剤を加える実験を行うと、ADマウスの方が高い反応性を示すこと、またAβを除去するとこの反応が正常化することを示している。

ではAβが直接NE受容体に結合するかが問題になるが、凝集型のAβが受容体と直接結合すること、さらにはNE受容体のどの領域と結合するかも特定している。すなわち、Aβ凝集体はNE受容体に結合して活性化の閾値を低下させる。

そしてこの研究のハイライトだが、Aβ凝集体とNEの両方が働く神経細胞ではGSKβの活性化を介してタウタンパク質のリン酸化が起こることを示している。また、ADモデルマウスを用いて、Idazoxanと呼ばれるNE受容体阻害剤を8週間投与しその効果を調べ、この薬剤はAβの凝集については何の影響もないが、Aβの凝集が増えた脳でも、GSKβの活性化とタウタンパク質のリン酸化が低下していることを示している。さらに、これは細胞レベルだけでなく、マウスの認知機能のテストでも、著しい改善が見られることを示している。

結果は以上で、Aβ凝集体と結合したNE受容体の活性化閾値の上昇がTauリン酸化、細胞死の引き金であることを示した素晴らしい仕事だと思う。ただ、人間のデータは弱いので、疑う人は多いと思う。私としては、人間にも利用できる正しい結果であってほしいと願っている。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月16日 精巣の成熟過程を single cell transcriptome で調べる(2月6日号 Cell Stem Cell 掲載論文)

2020年1月16日
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Single cell transcriptome技術の発展に関わった研究者については殆どフォローしていないが、少なくともこれを可能にしたバーコード技術は、21世紀生命科学革命の大きな立役者だと思う。そして、これを利用したsingle cell transcriptome技術により、身体中の細胞の多様性と共通性が定義され、詳細なbody atlasが完成しつつある。このことは、自分が現役時代に対象にしていた組織や発生過程の研究を見るとはっきりわかる。「もしあのときこの技術があれば、苦労する必要はなかった」と思うのは、先見がなかった証拠と言える。

今日紹介するユタ大学からの論文は人間の精巣の発達をこの技術を用いて調べた研究で2月6日号のCell Stem Cellに掲載された。タイトルは「The Dynamic Transcriptional Cell Atlas of Testis Development during Human Puberty (人間の思春期での精巣発生の動的転写細胞アトラス)」だ。

研究は単純で、思春期前から思春期(7歳から14歳)に死亡した子供から精巣の提供を受け、これを従来の方法と同時に、得られた細胞のsingle cell trascriptome(SCT)を調べている。

特に熊本大学時代、樹立した抗c-Kit抗体の機能を調べるため精巣の発生についてはかなり理解しているつもりだったので、タイトルを見て「SCTで新しい発見が本当にあるのだろうか?」と懐疑的だったが、読んでSCTのパワーを改めて思い知った。

ただデータは膨大で詳細に渡るので、私が新しいと思ったことだけ列挙することにする。

  • 精子分化については詳しく研究されていることから、なかなか新しい発見はないが、人間の場合、思春期前まで精原細胞からの分化がとまっていることがはっきりした。
  • 精原細胞には静止期にある細胞と、分裂期にある細胞が機能的に区別されるが、今回のSCTでは区別できていない。
  • これまであまり研究されてこなかったシグナルの関与が疑われる。特にアクチビンシグナルは今後研究が必要。
  • 最も驚いたのは、精子形成のニッチを提供すると考えられるセルトリ細胞は、2種類のミトコンドリア活性が異なる前駆細胞が存在するが、それぞれは完全に分離しており、思春期で分化すると同じセルトリ細胞になる。
  • ライディッヒ細胞は、筋肉様細胞と共通の前駆細胞に由来する

他にも、性転換希望者の精巣を用いて、思春期に起こるテストステロンの分泌がどの過程に影響するかなど詳しい結果が示されているが、詳細はいいだろう。

もちろんこれまでの研究が全く覆されるということはないが、しかし様々な新しい発見がまだまだあることがよくわかった。今後、バーコードを使った組織学で多くの遺伝子の発現を同じ組織で可視化することができれば、理解はまだまだ進化すると確信した。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月15日 膵炎をFGF21で治療する(1月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月15日
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FGF21は私が京大にいた頃、薬学部の伊藤先生により遺伝子クローニングされ、盛んに研究が行われていたのでよく覚えている。どうしてもFGFという名前のせいで増殖因子と思ってしまうが、その作用はFGF2などとは大きく違い、肝臓で作られ、代謝、特に脂肪代謝を調節するホルモンのような働きがあることがわかっている。

今日紹介する米国テキサス大学からの研究は、同じFGF21がすい臓の外分泌腺に直接働くことにヒントを得て、これを急性膵臓炎の治療に使えないか調べた研究で1月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Pancreatitis is an FGF21-deficient state that is corrected by replacement therapy (膵臓炎はFGF21が欠損した状態でFGF21で治療できる)」だ。

膵臓炎は自分が分泌する消化酵素が消化管に到達する前に活性を発揮してすい臓の細胞を消化する恐ろしい病気で、致死率も高い。この研究以前にすでにFGF21欠損マウスでは膵臓炎の発生が起こりやすいことが知られており、この研究では膵臓炎を様々な方法で誘導したときFGF21の膵臓での分泌が変化するのか調べている。

結果は予想通りで、3種類の異なる方法で誘導した膵臓炎のすべてで、FGF21は最初誘導されるものの、誘導後12時間以上経つとほとんど発現が消失することがわかった。

次に、ではFGF21を投与することで膵臓炎を改善できるか調べたところ、もちろん正常に戻るまでにはいかないが、全般に炎症の強さは低下し、壊死などは強く抑制できることがわかった。

もともとFGF21は膵臓の外分泌腺で働くことがわかっているので、外分泌腺のβKlothoをノックアウトしてFGF21が効かなくしたマウスで同じ実験を行うと、膵臓炎は全く正常化しないことから、FGF21は直接膵臓の外分泌細胞に働いて膵炎を抑えていることがわかった。

おそらくこの結果は、FGF21によって膵臓で分泌された消化酵素が早期に活性化されることを防いでいる結果と考えられるが、この研究ではこのメカニズムについてはこれ以上追求していない。

代わりにFGF21の発現が膵臓炎で低下するメカニズムを探り、ATF4により転写が誘導されるFGF21遺伝子が、膵臓炎により上昇してきたATF3により抑制されることで、FGF21欠損状態が起こること、同じことは人の膵臓炎でもみられること、そしてATF3を誘導するER ストレスを抑制する薬剤により膵臓炎を抑制できることを示している。

まとめると、膵臓炎誘導時に起こるERストレスでAFT3が発現し、FGF21分泌が抑制されることで、おそらく膵臓の消化酵素の早期活性化が進み、膵臓炎が進行する。したがって、FGF21を注射するか、ERストレスを止めると膵臓炎を治療できるという結果だ。

どちらの治療法も長期間続けるのは問題かもしれないが、短期に投与して膵臓炎を治療できれば、大きな進歩だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月14日 上皮間葉転換に関わる新しい分子の発見(1月8日 Nature オンライン掲載論文)

2020年1月14日
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血液発生では、まず上皮構造を持つエピブラストが原条で上皮間葉転換(EMT)を起こし中胚葉になる。このうちの一部は直接赤血球へと分化するが、残りは血管内皮へ分化する。血管内皮は当然上皮の一つなので、今度は間葉から上皮への転換が起こる。さらに驚くことに、一部の血管内皮は、上皮構造を解消してまた血液へと分化する。これは極端な例だが、上皮構造と非上皮構造は必要に応じて行ったり来たりできるようになっている。この機構に、TGFβファミリーシグナルと、その下流で誘導されるSnailが関わることは知られていた。ただこの分子経路があまりに有名でわかったような気になっていたが、実際にはまだまだ重要な分子が存在していた。

今日紹介するスローンケッタリングがんセンターからの論文は、すい臓ガンをモデルにEMTに必要な新しい分子RREB1を特定し、この腫瘍や発生での機能を明らかにした研究で1月8日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「TGF-β orchestrates fibrogenic and developmental EMTs via the RAS effector RREB1(TGFβはRasの下流で働くRREB1を介して線維芽細胞形成および発生過程でのEMTを統率する)」だ。

この研究は、TGFβシグナル研究の第一人者の一人、Massagueの研究室からで、最初はTGFβを使ってすい臓ガンにEMTを誘導する実験を進めていたのだと思う。この過程で、これまでTGFβによりEMTが起こる場合に誘導されるSnailの発現上昇は、突然変異型RASが存在するとき何十倍も高まることを発見する。

次に、RasとTGFβが同時に活性化させてEMTが起こると同時に細胞死に陥るすい臓ガン細胞株を用いて、EMTを抑える遺伝子の探索を行いRasの下流で働く転写因子RREB1を特定し、TGFβシグナル下流のSMAD2/3と複合体を作り、EMTに必要な転写を誘導することを明らかにする。

そして、RREB1をノックアウトしたガン細胞では、TGFβを加えてもsnailなどのEMT分子が誘導されないこと、またすい臓ガンの場合、RREB1ノックアウト細胞では細胞死が抑制され、がんの増殖が高まることを示している。面白いことに、すい臓ガンの場合EMTが起こると様々な繊維化に関わる分子が誘導される。これは、すい臓ガンで強い繊維化がみられることと一致する。ただ、EMTを誘導するRREB1がもし細胞死を誘導するとすると、この細胞死を克服する機構が働いて初めてすい臓ガンが完成することになる(これは私が勝手に考えているだけ)。

実際、肺ガンで見るとEMTで細胞死は誘導されないどころか、ガンはより悪性化する。この場合、RREB1をノックアウトするとガンの増殖は逆に低下する。

このように、それぞれ細胞のコンテクストに応じて、EMTは様々な表現形をとる。これをさらに確かめるため、EMTが最初に見られる原腸陥入時におこるEMTを最初はES細胞の分化実験、そして正常胚にRREB1ノックアウトES細胞を導入して発生させる実験を行っている。予想通り、RREB1がノックアウトされると、中胚葉の誘導がおこらず、またRREB1ノックアウトES細胞を導入された胚では、原腸陥入が強く阻害され、胎児発生が止まることを明らかにしている。

他にも様々な実験を行なっているが、詳細は省くが、以上の結果から、RREB1はRasの下流のMAPKによりリン酸化されることでSMADと相互作用し、EMTをガイドしていることが明らかになった。今後この新しい考え方で、発生や血管などの組織、あるいは上皮系発がんを見直すことの重要性を認識した。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月13日 RNAワクチンの可能性(1月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月13日
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胎児や乳児は母親からの抗体で守られている。マウスやヒトでは胎盤を通して母親の抗体が移行する。また、母乳の中の抗体を腸管から吸収することも可能だ。この結果、母親が妊娠中にインフルエンザワクチンを受けると、乳児のインフルエンザが50%減少することが報告されている。しかし、母親からの抗体はいいことばかりではなく、子供の体内に残存しているうちは、新しい免疫がを誘導するのが難しくなる現象が知られている。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はこの問題をmRNAをリピッドで被覆して投与、細胞内で抗原を作らせるワクチンが解決できることを示した研究で1月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Nucleoside-modified mRNA vaccination partially overcomes maternal antibody inhibition of de novo immune responses in mice (修飾拡散を用いたmRNAワクチンは母体由来の抗体による免疫阻害を克服できる)」だ。

このグループは抗原を直接注射する従来のワクチンに代わって、抗原のmRNAのウリジンをメチル化ウリジンに変え安定化させた後、細胞内へ安定に導入するためのリピッドと複合させて作成するmRNAワクチンを研究していたようだ。

ただ、コストなどの面からそう簡単に普及はしないと思われる。そこで、母親の残存抗体が存在した状況でもmRNAワクチンは有効であることを示そうと計画したと思われる。

まず妊娠マウスをインフルエンザワクチンで免疫し、誘導された抗体が生まれてきた子供をインフルエンザ感染から守ることを確認した上で、この子供マウスでは一般的なワクチンでは抗体がほとんど誘導できないことを示している。

同じ条件でRNA ワクチンを筋肉注射すると、母親の抗体がない場合よりは少し低下するが、IgG1クラスの抗体は誘導でき、感染を防ぐことができることを示している。すなわち、なぜかmRNAワクチンは母親の抗体があっても子供の免疫を誘導できる。IgG2aクラスで見ると確かに母親の抗体が反応を抑制しているので、筋肉細胞から作られた抗原は全く母親の抗体の免疫抑制効果は確かにあるが、抗体のクラス別にこれをすり抜けることができている。

最後にこの原因を色々探ろうとしいる。単純に抗原が多く作られるからmRNAワクチンが有効である可能性を排除するため、mRNAワクチンの量を減らして注射しても抗体が誘導できることを確認している。また、リンパ節の胚中心に存在するインフルエンザ特異的B 細胞の数を調べて、母親の抗体があっても胚中心の記憶B細胞が強く誘導されていることを示している。最後に、通常の抗原を強いアジュバントとともに免疫する実験を行い、ある程度免疫は誘導されるが、それでも母親の抗体の抑制効果を克服するまでには至らないことを示している。しかし、結局は何故mRNAが母親の抗体の阻害効果をすり抜けられるのかは説明しきれていない。

結果は以上で、母親の残存抗体の効果を改めて認識することができたが、基礎免疫学的にはなぜmRNAワクチンがこの壁を克服できるのかについては理解できずに終わった。しかし、臨床医学的には確かめる価値は十分ある。特にはしかなどの混合ワクチンは母乳を飲んでいる時に接種する。ほとんどの場合お母さんの抗体はないと考えていいが、授乳中に母親が感染したりした場合は、一つの選択肢として考えられるような気がした。逆に、全てをmRNA ワクチンで置き換えてもいいが、結局はコストの問題で、この壁の方がずっと大きいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月12日 アルツハイマー病の免疫反応:結果か原因か(1月16日 Nature 掲載論文)

2020年1月12日
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アルツハイマー病(AD)では、ミクログリアの活性化が見られることから、単純な変性疾患というより、炎症が何らかの役割を演じていると考えられるようになっている。とはいえ、抗原特異的免疫反応が関わるという論文には、少なくとも私自身は読んだことがなかった。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は様々な手法を用いてADで抗原特異的キラーT細胞の反応が亢進していることを示した研究で1月26日号のNatureに掲載された。タイトルは「Clonally expanded CD8 T cells patrol the cerebrospinal fluid in Alzheimer’s disease (クローン増殖したCD8T細胞がアルツハイマー病の脳脊髄液をパトロールしている)」だ。

最後に種明かしがあるが、このタイトルを読むと、ADもアミロイドやタウに対する免疫反応が起こる自己免疫病かと思ってしまうが、これについては全く示されていないことを頭に置いて読む必要がある。ただ、この研究は最初からADでも抗原特異的免疫反応があるはずだという仮説で実験が進められていく。

まずFludigmのCyTOFを用いて末梢血の発現しているタンパク質を単一細胞レベルで調べ、ADの患者さんではCD8T細胞で、特に細胞障害性分子を発現し、また記憶型の細胞で、抗原による反応性が高いポピュレーションが上昇していること、そしてこの数が認知障害度と比例することを示している。

次に、このタイプのCD8キラーT細胞が実際に脳内に存在するか調べ、正常人では血管外に移動することがないこの細胞がAD患者さんでは血管外に認められ、さらにアミロイドプラークの周りにも存在することを示している。これを反映して、患者さんの脊髄液では記憶型CD8T細胞が認められることも示している。

ではこれらCD8T細胞は特定の抗原に反応して増殖してきたかどうかが問題になるが、ADの患者さんでは間違いなくCD8T細胞のクローン性増殖が認められ、またそのような細胞が海馬にまで侵入している。

そこで最後に、このようにクローン性に増殖しているCD8T細胞がどの抗原に反応しているのか特定を試みようとしているが、EBウイルス核内抗原に反応しているT細胞以外は、抗原の特定には至らなかった。

以上の結果は私なりにまとめると、確かにADそしておそらくパーキンソン病のような神経編成性疾患では記憶型CD8キラーT細胞が増殖し、脳内にも認められ、新しい診断指標として役立つ可能性はあるが、これが原因なのか、それとも変性により活性化された炎症の結果なのか、まだよくわからないと結論できるだろう。結局反応を誘導している抗原の特定がこの問題の解決には必要だと思う。例えば以前紹介したようにもし歯周病菌がADに存在するなら(https://aasj.jp/news/watch/9628)、抗原の候補としては面白そうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

「ひきこもり」は万国共通の医学用語になるか?

2020年1月11日
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World Psychiatryに掲載された加藤さんたちの論文

長期間自分の部屋や自宅から出られなくなると、我が国では引きこもりと診断され、様々な公的・私的支援を受けることができる。各地域に支援センターが設置され、様々な機関が共同して本人や家族を助けている。しかし、今後この症状を一つの精神疾患単位として研究していくことも重要で、この要請に応えるため九州大学病院・精神科では引きこもり診療部を設立し、本人や家族の教育プログラムの治験を始めたようだ。

今日紹介したいトピックスが、この診療部門の加藤先生たちによってWorld Psychiatryに発表された意見論文で、引きこもりが日本の文化的風土に根ざした特殊な状態ではなく、多くの国で報告され始めた一つの疾患単位であるとして研究することの重要性を訴えている。すなわち、「引きこもり」が日本発の診断名として今後世界的に利用されるようになる。

ちなみにPubMedでHikikomoriと検索すると85編の論文が検索され、そのうち17編が2019年に発表されているが、我が国からの論文は5編だけで、すでに世界的な用語として多くの研究者に使われ始めているのがよくわかった。

また同じ雑誌に加藤さんたちは、1)引きこもる場所が自宅に限られる、2)6ヶ月以上続くことが多いなどの特徴に加えて、例えば社会とのコンタクトを避けているわけではないことなど他の病気との区別について述べてもいるが、これは専門家に任せたほうがいいだろう。

我が国の研究者の名前がついた病気は多いが、「Hikikomori」のような状態を示す日本語が病名になることは珍しい(例えばイタイイタイ病)。ぜひ世界的な疾患単位として発展してほしいと思うし、我が国でのHikikomoriが1%を超えたと聞くと、その可能性はじゅぶんあると思う。

とするなら、引きこもりという言葉が使われるようになった経緯を30年前に遡って誰かはっきりさせる必要があると思う。

1月11日 原腸陥入時細胞が片方にしか動かない理由(10月10日号 Science 掲載論文)

2020年1月11日
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最近トップジャーナルから、アフリカツメガエルやニワトリ胚を用いた発生研究が減っている。これは遺伝学的胚操作が難しいという理由のせいだろうが、シュペーマン以来の伝統的胚操作が利用できる利点は今でも十分存在すると思う。要するに、使う材料が先にあるのではなく、知りたい疑問が先にあるなら、カエルやニワトリを使うほうが良い場合は多いと思う。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校の三川さんの研究室からの論文はニワトリの利点を最大限に生かせた面白い研究で1月10日号のScienceに掲載された。タイトルは「Programmed cell death along the midline axis patterns ipsilaterality in gastrulation (中心軸に沿ったプログラム細胞死が原腸陥入で細胞を片方だけに移動させる)」だ。

私もマウス胚で原腸陥入期を長く見てきたが、上皮からこぼれた中胚葉細胞がなぜ片方にしか動かないのかなどという疑問を持ったことはなかった。というより、結局左右同じなのである程度は混じり合うだろうと思っていた。おそらく私が個体レベルより細胞レベルでこの過程を見ていたからだろう。しかし、実際はそうではないようだ。

三川さんたちはまず左右のエピブラストを異なる色素で標識して追跡する実験を行い、左右の細胞が原腸陥入後決して混じらないことを確認し、このとき中心線に動いてきた標識細胞が細胞死を起こし、しかも除去されずその場に維持されることに気づく。

普通死んだ細胞に機能があるとは思はないが、さすがプロで、この中心線に集まる細胞死が陥入後の細胞移動の方向性を決めると仮説を立て、まず細胞死をブロックするカスパーゼ阻害剤で処理すると、細胞死が防がれると同時に実に36%もの細胞が反対側からくることがわかった。

次になぜ中心線に移動した細胞が細胞死をおこすのか調べる目的で、様々な増殖因子や細胞外基質を操作する実験を行い、細胞外基質のラミニンの合成をとめると細胞の移動方向がランダムになることを明らかにしている。

いくつかの実験の結果、細胞外基質は直接細胞死を誘導するよりは、中央に細胞死細胞を集める役割があることを確認した後、ラミニン合成を抑制して左右差がなくなった胚の中心に細胞死を誘導する実験を行い、細胞死が陥入後の細胞の偏側性を決めることを明らかにしている。

コンパクトな論文に、きちっと必要なメッセージが詰め込まれており、さすがニワトリ胚と羨ましくなる研究だと思う。もちろん話はこれで終わるわけではない。細胞死の誘導機構や、細胞移動を阻止する機構、また発生では繰り返し起こる細胞死の新しい機能など、広がりがあるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

気になる治験研究 3 心房細動と診断されたらアルコールをやめた方がいい

2020年1月10日
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心房細動は高齢化に伴って増加している。私の年になると、周りにも心房細動と診断された人をよくみかける。しかし、少し医学知識があるからと相談されても、「脳梗塞のリスク要因なので、まず専門医に診てもらって、必要ならカテーテルで不整脈の巣をアブレーションしてもらう」よう勧める以外、専門家でない私には答えようがない。

しかしこんな私でも、気の利いたアドバイスができるネタがオーストラリアのアルフレッド病院からThe New England Journal of Medicineに発表された。

この研究では、心房細動にアルコールの量を減らすことは効果があるかを調べている。実際には、だいたいワインにしてグラス一杯以上、毎日飲んでいる心房細動の患者さんを無作為に2群にわけ、禁酒群では一週間に2杯までに制限してもらう。コントロールはこれまで通りで制限しない。

禁酒を伴う治験というのは難しいようで、最初700人近くの患者さんに声をかけているが、500人以上が禁酒が必要と聞いただけで参加をやめている。最終的に禁酒してもいいと参加してくれた人は140人に減ってしまったが、治験参加者は決められた生活を半年続けている。

結果は期待通りで、半年の経過観察中に再発した率が、これまで通り飲み続けている人たちで73%に対し、禁酒群では53%に低下している。また、経過中に入院が必要になった患者さんがコントロールでは20%に対し、9%と半減している。すなわち、禁酒すれば心房細動は良くなる。

これまでアルコールは心臓に対する刺激性があるとされてきたが、この結果がそれを反映しているかどうかはよくわからない。いずれにせよ、心房細動と診断されたら、アルコールは控えたほうがいいようだ。

これからはこのネタをアドバイスに使うことにするが、私はおそらく治験に参加しなかった500人と同じで、禁酒を考えること自体が心臓に悪い。

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