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12月16日 ガンに対する細胞治療の成否を決める要因(12月11日 Science 掲載論文)

2020年12月16日
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チェックポイント治療が導入されるまで、ガンの免疫療法というと、腫瘍に浸潤しているT細胞を体外で増殖させたあと患者さんに戻してガンを殺させる細胞移植治療のことを指していた。これに遺伝子操作を加えたバージョンがCAR-T治療で、ガン抗原特定している分効率が高まっているが、原理は同じだ。

ガンの細胞治療の草分けは、米国国立衛生研究所のRosenbergだが、今日紹介する論文は、チェックポイント治療導入後も、このグループが細胞治療の問題を改善しようと懸命の努力をしていることがよくわかる研究で12月11日号のScienceに掲載された。タイトルは「Stem-like CD8 T cells mediate response of adoptive cell immunotherapy against human cancer(ヒトの癌に対する免疫細胞移植治療の成否は幹細胞様CD8T細胞が決めている)」だ。

この研究ではまず、チェックポイント治療など免疫治療はまだ受けたことのない、ステージ4のメラノーマ患者さんの腫瘍内T細胞(TIL)を移植前にCyToFと呼ばれるマルチパラメーター細胞解析で調べ、移植後臨床経過を調べ、ガンが退縮したグループと、退縮しなかったグループで、TIL中に存在する細胞に違いがあるか調べている。

結果は明瞭で、移植したキラー細胞の中でCD39陰性CD69陰性の記憶型細胞の数が、患者さんの生存期間と完全に相関することが明らかになった。この発見、すなわち抗原に反応して自己再生を繰り返す能力を持ったキラー細胞を用意できるかどうかが細胞治療の成否を決めるという発見がこの研究の全てで、あとは、他の方法を用いてこのことを確認しているに過ぎない。

まず、single cell RNAseq、すなわち転写レベルでこのことを確認している。

問題は、これまでの研究で、腫瘍のネオ抗原に反応する細胞はCD39CD69(double negatie:DN)ではなく、両方陽性(double positive:DP)のエフェクター細胞であることが知られていることで、今回の結果はネオ抗原特異性細胞が重要とするこれまでの結果と矛盾する。

そこでもう一度、細胞治療が効果を示した人について調べ直すと、治療効果が見られた移植細胞ではネオ抗原特異的細胞はCD39陰性分画に存在することがわかり、ホストの中で長く生存できる抗原特異的なメモリーT細胞が調整できたかが治療効果を作用することが明らかになった。

最後に、細胞治療で完全に寛解した一人の患者さんの末梢血を追跡し、患者さんの体内で持続しているネオ抗原特異的T細胞はDNポピュレーションに存在することも確認している。

以上の結果は、TILを調整した時、うまく抗原特異的メモリーT細胞の多い細胞が調整できると、患者さんの予後がよくなることを示しているが、これを確認するためにマウスにメラノーマを移植する実験系で、DNとDPを比べる実験を行い、圧倒的にDNに制ガン効果があることを示している。

ではいかにしてネオ抗原特異的DNメモリー細胞をTILから調整するかが次の課題になるが、目標が絞られたことで、大きな一歩になった様に感じる。

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