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12月4日 アルツハイマー病をエンドゾームから見直す(11月25日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年12月4日
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遺伝的アルツハイマー病(AD)の研究から、アルツハイマー病は有名な、アミロイドβ、Tauだけでなく、シナプス形成分子、そしてミクログリア活性化分子など、様々な要因が絡み合う可能性が示唆されている。ただ、それぞれの要因がどのように絡み合うのかについては、ERストレスや、それにより誘導される炎症などが示唆され、現在研究中と言ったところだろう。ただ、ERストレスや炎症だけでは、例えばなぜAD患者さんの脳脊髄液でTauが上昇しているのかなど、説明できないことも多かった。

そんな中、アミロイドTau、シナプス、ミクログリアの変化を統一的に説明できると、急速に注目を集めているのがエンドゾームリサイクル機能異常仮説で、今日紹介するコロンビア大学からの論文は最初からこの仮説を検証することに焦点を当てた研究だ。タイトルは「Tau and other proteins found in Alzheimer’s disease spinal fluid are linked to retromer-mediated endosomal traffic in mice and humans(Tauや他のアルツハイマー病の脊髄液で検出される分子は、マウスやヒトでのレトロマーによるエンドゾーム輸送と関連づけられる)」だ。

ざくッと言ってしまうとエンドゾームは、細胞膜へ輸送されるリサイクル経路と、ゴルジ体へ輸送される逆行性経路に分かれるが、タイトルにあるレトロマーとは、この逆行性経路を指示するタンパク質複合体のことだ。最近注目されるADのエンドゾームリサイクル機能異常は、このリサイクルvs逆行のバランスが崩れることがAD状態の一つの表れだと考えているので、この研究ではVps35を神経細胞でノックアウトして、レトロマー形成を抑え、リサイクル経路を高めることで生じる脳脊髄液の変化を見ている。

すると、リサイクル経路が高まることで上昇するタンパク質の中に、アミロイドやアミロイド類似タンパク質のようなBACE1の基質分子が含まれることがわかった。すなわち、エンドゾームリサイクルによりBACE1の活性が高まる結果としてアミロイドやその他の気質の神経細胞からの分泌が起こることを確認している。

また、逆行経路を阻害した神経だけで分泌される分子を調べると、驚くことにTauが登場してきた。そして、レトロマー阻害により変化する神経変化に関わる分子から、鍵となる中核分子を計算してみると、なんとアミロイドとTauがトップ2に躍り出た。すなわち、逆行性のエンドゾーム輸送が何らかの原因で渋滞すると、ADの2大分子が両方脳脊髄液に分泌されるという結果を招くことが明らかになった。

もしこれが正しいとすると、BACE1の基質分子の脳脊髄液への分泌と、Tauの分泌が、人間でも見られるはずで、まず無症状の人で調べてみると、期待通り脳脊髄液のTauとBACE1基質APLP1やCHL1の分泌がほぼ完全に相関することを発見する。また、分泌量の測定を難しくする沈着したアミロイドプラーク量で補正すると、認知障害がで始めた人でも、脳脊髄液中のTauとAPLP1やCHL1との完全な相関が見られる。

さらに、ADを発症した人で見ると、分泌されるTauはリン酸化されており、また正常と比べると脳脊髄液中のAPLP1もCHL1もリン酸化Tauとともに上昇していることを発見する。すなわち、ADでは逆行性経路が何らかの原因で障害されていることが示唆された。

結果は以上で、レトロマーをノックアウトしたマウスの解析とADの解析を対応させて、エンドゾームリサイクル異常がADの様々な検査データの背景にあることを示した重要な結果だと思う。もともとエンドゾームは、シナプスでの神経伝達因子の活動や、ミクログリアの食作用など、これまでADの病態に関わる要因と直接の関わりを持っており、今後、エンドゾームリサイクルの視点から病態の再検討が進み、また様々な介入手段が開発されるのではと期待できる。

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