かってサイトカイン研究は我が国の免疫学や血液学のお家芸で、この時代を作った研究者の多くは、現在も様々な分野で活躍している。今でこそチェックポイント治療で知られる本庶先生だが、私が独立して熊本大学にいる頃、IL-4やIL-5遺伝子のクローニングで華々しくサイトカイン研究の第一線を担っていた。当時この分野での本庶グループの大きな貢献の一つがIL-2受容体(CD25)の遺伝子クローニングだろう。
ただIL-2受容体はCD25にとどまらず、その後の研究でなんとα、β、γの3種類(現在では、CD25、CD122、CD132)の3種類が存在することがわかり、しかもαだけ、βγ、αβγの異なる組み合わせが、異なる細胞で発現して、下流のシグナルもかなり違うことがわかった。最初サイトカイン研究の1丁目1番地として応用が期待されたIL-2も、そのままだと多様な細胞に効果を示すことから、臨床応用が阻まれている。
この状況を変えるために、IL-2の構造を変化させてαに結合できなくして、刺激する対象を絞る方法が開発され、βγに特異的に結合して、キラー細胞だけを増殖させるIL-2が作成されている(https://aasj.jp/news/watch/9537)。もう一つの方法は、IL-2とそれぞれの受容体との接触部位に対する抗体を作成し、例えばαだけに結合する様に操作する方法だ。αはTregの最も重要なマーカーであることから、特にTreg選択的操作が可能になるのではと期待されている。事実、マウスではその様なモノクローナル抗体が開発され、Treg増殖に使えることが示されている。
今日紹介するチューリッヒ大学からの論文は、ヒトIL-2がα受容体に選択的に結合できるモノクローナル抗体(mAb)を開発し、Tregを体内で選択的に増やすことができることを示した論文で12月16日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Receptor-gated IL-2 delivery by an anti-human IL-2 antibody activates regulatory T cells in three different species(IL-2に対する抗体を用いてIL-2結合受容体を制限することで3つの種でTregを活性化できる)」だ。
この研究ではなんと1万種類のIL-2に対するモノクローナル抗体を、それぞれの受容体の組み合わせを発現した細胞でスクリーニングし、αが発現している細胞だけにIL-2が結合する様になるmAbを選んでいる。
こうして選んだ数種類の抗体の中から、Tregの増殖を誘導する能力が高いmAbを選び、さらに詳しく検討すると、IL-2のγδへの結合を抑えるというだけでなく、IL-2がαに結合した後、すぐにIL-2から遊離してIL-2を直接αに受け渡せる能力がある抗体だけが、高い活性を持つことを示している。また、構造解析から、この可能性を確認している。
もともとαだけを発現している細胞へのIL-2の親和性は弱いため、このモノクローナル抗体は、IL-2を三種類の受容体全てを発現した細胞へ選択的に連れてきて、その後受容体にIL-2を完全に受け渡すことができる。もちろん、三種類の受容体を発現しているT細胞はTregだけではないが、この抗体とIL-2をマウスに注射すると、FoxP3陽性のTregが強く誘導される。
最後に、ヒトでも使える様に抗体をヒト化した後、試験管内でヒト末梢血と培養すると、FoxP3陽性のTregをかなり選択的に増殖させることができる。また、ヒトの代わりにサルに投与する実験を行い、強くTregの増殖を誘導できることを示している。
詳細はかなり飛ばしたが、以上が結果で、人間の体内でTregを選択的に増殖させる方法ができたのではと期待する。今やTregを疑う人はいないが、臨床応用となると様々なハードルがある。その一つ、選択的増殖に手がかかったことの意義は大きい。