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12月21日 インターフェロンγがガン免疫を誘導する理由(12月16日Natureオンライン掲載論文)

2020年12月21日
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ガン細胞を栄養代謝レベルで弱らせる戦略の開発が進んでおり、例えば断食と同じ効果がある1週間の食事プログラムを毎月続けるだけで乳ガンの治療効果が高まることを以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/13544)。さらにアミノ酸代謝になるとガンと正常の違いは大きく、ガンを弱らせるアミノ酸制限食の開発に期待が集まっている(今年6月にCell Metabolismに発表された総説は一読をお勧めする: Molecular Cell 78, 1034 ,June 18, 2020)。その一つがトリプトファン代謝で、IDO1酵素によりトリプトファンはT細胞免疫抑制分子Kynurenineに転換されて抗ガン免疫を抑えるため、トリプトファン制限により免疫を高める可能性が調べられている。

今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所とオランダ・ガン研究所からの論文は、トリプトファン欠乏により起こる翻訳異常を追求する中で、インターフェロンによりガン免疫が高められるメカニズムを解明した研究で12月16日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Anti-tumour immunity induces aberrant peptide presentation in melanoma(抗腫瘍免疫はメラノーマの異常なペプチド提示を誘導する)」だ。

既に紹介した様に、ガン免疫を抑制するKinurenineはトリプトファンからIDO1により合成されるが、このIDO1はガン免疫に関わるT細胞から分泌されるインターフェロンγ(IFNγ)により誘導される。すなわち、一種のフィードバック・チェックポイントが形成される。従って、IDO1を阻害してやればこのチェックポイントは無効になると考えられるが、実際には臨床的効果ははっきりしない。

事実IFNγには確実に抗ガン作用があり、Kinurenine誘導だけを考えると全体像は見えない。この研究ではIFNγによるトリプトファン代謝異常にガン免疫を高める効果がないか調べる中で、オランダ・ガン研究所のグループが開発した、アミノ酸欠乏により誘導される翻訳異常を調べるdiricoreと呼ばれる方法を利用しようと思いついた。

Diricoreはリボゾームのトンネル中に存在するmRNAだけを取り出して配列を決定する方法だが、アミノ酸欠乏で翻訳が止まるプロセスを解析するのに用いられ、ガンのアミノ酸代謝研究に大きな貢献をしている方法だ。もし、IFNγによりIDO1が誘導され、トリプトファン欠乏が起これば、当然トリプトファン特異的な変化がdiricoreで捉えられる。

実際、メラノーマをIFNγで処理すると、トリプトファンコドン下流で翻訳が停止することがわかる。ただ、IFNγで処理した場合、翻訳が止まるだけでなく、そのすぐ下流での翻訳停止が多発することを示す、彼らがW-bumpと呼ぶパターンが観察される。

詳しく調べると、トリプトファン欠乏で止まりかけた翻訳が、なんとかフレームを変化させて次のトリプトファンやストップコドンで止まるまで、翻訳を続けた結果であることがわかった。

とすると、次の翻訳停止までにできたタンパク質は自然には存在しないアミノ酸ということになり、当然ガンのネオ抗原として利用される可能性が浮かび上がる。これを調べるため、IFNγ処理した細胞の質量分析を行い、124種類のフレームがずれたペプチドが存在し、そのうち41種類は、偶然ではなく繰り返し現れることを示している。最後に、これらがガンのネオ抗原として働くことを細胞培養系で確かめている。

免疫に関与するペプチド解析はかなり綿密に行われており、割愛してしまったが、インターフェロンがkinurenineの合成と、ネオ抗原の誘導という、2面性を持つことを示した力作だと思う。ただ、kinurenine合成の問題は、トリプトファン制限により解消できるはずなので、癌の免疫療法を高めるという視点では、面白い論文だった。

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