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12月29日 神経のミエリン化は機能的必要性に応じてプログラムされる(12月18日 Science 掲載論文)

2020年12月29日
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脱髄性疾患でも神経軸索の再ミエリン化が起こることから分かる様に、大人になっても神経のミエリン化はゆっくりではあっても、新しく変化していることはよく知られている。ただ、一本一本の神経について、ミエリン鞘がどの様に変化しているのかをとらえるためには、何週間も一本の神経細胞を見続ける必要がある。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、生きたマウスの皮質神経を一本づつ連続的に観察し、その周りにできたミエリンの変化を調べた研究で、12月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「Neuron class–specific responses govern adaptive myelin remodeling in the neocortex(ニューロンのクラス特異的な反応が新皮質でのミエリンのリモデリングをコントロールする)」だ。

生きたマウスの脳内の神経を数週間にわたって観察し続けるという研究は珍しくなくなったが、ミエリンに焦点を当てて観察したというのはそうないと思う。この研究では、視覚野の興奮神経と、介在神経を別々にラベルするとともに、ミエリン化に関わるオリゴデンドロサイトをラベルすることで、神経とその周りのミエリン化を同時に観察できる様にして、同じ神経細胞上のミエリン鞘の変化を追跡している。ただ、ビデオで連続的に観察しているわけではなく、同じ場所を時間を開けて写真を撮り、それを立体画像に再構成し、各神経でのミエリン鞘の変化を調べている。と簡単に言ったが、実際には一本一本の神経で変化を詳しく検討する必要があり、図を見るだけで大変な作業であることがわかる。

まず30日間でどの程度の変化が見られるかを興奮神経と介在神経で調べると、興奮神経では時間とともにミエリン鞘が長くなっていくが、介在神経では成長・退縮両方がバランスよく起こって、全体ではミエリン鞘は一定に保たれていることが明らかになる。さらに、この動態を既に存在するミエリン鞘の変化と、新しいオリゴデンドロサイトによるミエリン鞘形成に分けて調べ、新しいオリゴデンドロサイトによるミエリン化は、既存のミエリンの再構成よりはるかにダイナミックであることを確認している。

この様に、正常の視覚野でのミエリン動態を確認した後、次に片方の瞼を縫合して、見えない様にした時、このミエリン動態がどう変化するか調べている。驚くことに、片方の目を閉じたままにして入力を遮断しても、興奮神経では動態に変化はほとんど見られない。一方介在神経は予想以上にダイナミックに変化することがわかる。 まずリモデリングは両眼視に関わる領域の介在神経で選択的に起こる。これは、片方の目が急に見えなくなる時、両眼視で行なっていた作業をまず変化させる必要があるからと考えられる。しかも、もう少し時間を区切って調べると、視覚入力を遮断し1週目ではミエリン鞘が長くなるが、次の週には今度は退縮が来る。以上の結果から、入力の変化に合わせて、予想外の複雑性でミエリン鞘のリモデリングが行われていると結論している。実際には生理学的実験は行われておらず、この変化の詳細は不明のままだが、脳内で信号に合わせて、一本一本の電線工事が休まず続いていることがよく分かった。これほど複雑だと、今後私の脳でも電線工事の効率の低下は避けられないだろうと覚悟した。

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