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12月9日 ウイルス感染検査の将来(11月25日 Cell オンライン掲載論文)

2020年12月9日
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新型コロナウイルス(covid-19)感染が始まった頃、メディアやSNSで続いた最も熱い議論は「PCR検査をもっと拡大すべきか」、そして「マスクは必要か」だった。賛成・反対どちらの意見にも理由があったと思うが、結局検査もマスクも現在の感染状況に立ち向かうための必須の条件となっている。ただ、現在必須アイテムになったからと言って、将来はわからない。マスクはコストという面で置き換えは難しい気がするが、上気道にスプレーして感染を防ぐ方法は様々な方法が現在開発中だ。例えばナノボディーを使う方法は、大腸菌で抗体を作れることから価格も抑えられるだろう。顰蹙を買った吉村知事のヨードによるうがいも、他人に感染させないという点では意味がある(実際歯科医のガイドラインは患者さんにオーラルリンスをお願いすることで、医師の感染機会を減らすことを推奨している)。おそらく「自分のことだけ考えず、周りの人を感染させない、人を思いやる気持ちを持ちましょう」とでも言っておれば、称賛されたと思う。

同じことは現在検査のスタンダードになっているPCRでも言えるだろう。PCRは今も遺伝子配列が明らかな病原体に対する感度の高い検査方法だが、定量性、機器、検査時間など、問題は多い。よく、陽性者の8割しか診断できないPCRは社会政策上問題があるという意見を述べる人がいるが、「だからPCRが必要ない」ではなく、「まだまだ改良すべき点が多い」と問題を指摘するのが筋だ。最近抗原検査が行われるようになってきたが、この検査には良い抗体が必要で、パンデミック初期にはまず利用できない。

その意味で、PCR検査に代わる新しい核酸検査の開発は必要で、我が国も備えが必要だと思う。時間短縮や機器の必要性の問題で言えば以前紹介したLAMP法もあり、事実検査として利用できるところまで来ていると思うが、これも遺伝子を増幅するという点では定量性の問題がある。

これに対しこれまで何度も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/6731)、(https://aasj.jp/news/watch/12887)、特異的なガイドRNAを認識すると、一本鎖RNAやDNAを配列に関係なく切断するCas12やCas13を用いたクリスパー検査法は将来性が高いと思う。事実、Gootenbergにより開発されたSHERLOCKはFDAに検査として認可され、現在では核酸抽出プロセスの必要ないバージョンSHINEが完成している。

この方法の利点は、ガイドRNAさえうまく設計すれば、あとはCas13DNA切断酵素の量がそのままガイド/ウイルスRNAの量を反映できるので、定量性が高い点だ。残念ながら、SHERLOCKにはウイルスRNAをリニアに増幅するプロセスが入っているが、今後同じウイルス配列から設計されるガイドの数を増やせば感度も上げることが可能になる。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、全く増幅なしに複数のガイドRNAを組み合わせることで、定量的にCov2コピー数を検出する検査方法の開発で11月25日Cellにプレプルーフ版が出版された。タイトルは「Amplification-free detection of SARS-CoV-2 with CRISPR-Cas13a and mobile phone microscopy (CRISPR-Cas13aとスマフォ顕微鏡を利用した増幅の必要のないSARS-CoV-2検査)」だ。

いかに将来重要だと言っても、この論文がCellに掲載されるというのは、著者にDoudnaさんが入っているのと、非常時だからかと思ってしまう研究で、特に目新しさはなく、一言で言うと各コンポーネントを至適化し、実際の患者さんのウイルス量を定量できるようにしたという結果だ。

原理としては、ガイドに結合するウイルスRNAの存在で活性化されるCas13aを、結合しているRNAが切断されると蛍光分子が発色する構造を持った基質で検出する。このとき、感度が上げるガイドの選択、ガイドの数、そしてoff targetの活性で偽陽性の防止法など検討し、現状のPCRを凌駕する感度を持ち、30分で判断できる検査に仕上げている。

これら反応液は素人でも使える形にできるので、最後に蛍光量を分光計を用いて測定する代わりに、スマフォに装着したスマフォ顕微鏡を用いて、測定が可能にして、将来は家庭でも診断が可能になると結論している。すなわち、PCR検査の問題、機器、時間、定量性、そして人手を一気に解決できるという話だ。

ただ、私がこの技術に注目するのは、これらの利点以上に、CRISPR-Cas12/13システムは、

  1. 配列さえわかれば同じプラットフォームですぐに検査キットを作成で、新しいパンデミックに備えられる、
  2. そして、一種類だけでなく、ガイドさえ増やせば、何十種類、何百種類のウイルスの存在をまとめて検査できる、

可能性を持っているからだ。

我が国でもすでに多くの投資がPCRに費やされたが、この投資に縛られると将来を失う。PCRは現在必要な投資として割り切って、将来のパンデミックや疫学に備える技術を我が国も今から準備することが重要だと思う。

今日はCRISPRを取り上げたが、他にもグラフェンを用いたバイオセンサーも開発されている(Alafeef et al, ACS NANO, https://dx.doi.org/10.1021/acsnano.0c06392)ので、CRISPRにこだわることもない。

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