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12月2日 リューマチ性関節炎の進行とシトルリン化タンパク質反応性B細胞(11月18日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年12月2日
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シトルリン化されたタンパク質に対する抗体は、リューマチ性関節炎(RA)との相関が高く、我が国でも鑑定診断の重要な検査項目になっている。しかし、この自己抗体がRA自体の原因になっていると考える人は少ない。しかし、本当にシトルリン化タンパク質に対する反応がRA発症に関係がないのか、またなぜこのような自己抗体が誘導されるのか、これを調べるためには患者さんのシトルリン化タンパク質(CP)に反応するB細胞を詳しく調べる必要がある。

今日紹介するオランダ・ライデン大学からの論文はシトルリン化ペプチドを用いたCP反応性B細胞検出系を確立し、RA発症へのCP反応性B細胞の関わりを調べたオーソドックスな研究で、11月18日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Persistently activated, proliferative memory autoreactive B cells promote inflammation in rheumatoid arthritis(持続的に活性化され、増殖する自己反応性記憶B細胞はリュウマチ性関節炎の炎症を促進する)」だ。

このグループは環状シトルリン化ペプチドを用いて高い感度でCP特異的B細胞を特定する方法を開発しており、この研究ではこの方法で検出できる自己反応性B細胞を、普通の抗原の代表として用いた破傷風トキシン(TT:ワクチンで免疫されており、またワクチンで再刺激も可能)に対するB細胞と比較することで、このようなB細胞が誘導される原因および、RA病理に対するこのB細胞の役割を明らかにしようとしている。

結果は明瞭でTT特異的B細胞と比べると、RA患者さんのCP特異的B 細胞では、CD80/86やHLA-DRの発現が高く、増殖マーカー陽性の活性化型B細胞が多い。また、CD80の発現量とリュウマチの重症度には相関が見られる。

次に、関節痛だけが見られる段階、病歴の短いRA、そして確立したRAの3群に病気を分けて、同じようにCP特異的B細胞の状態を調べると、病歴の長さを問わず、RAと確定診断された患者さんでだけCP特異的B細胞が活性化型になっている。すなわち、RAが確立する過程で、CP特異的B細胞が持続的に刺激される状態が作られることになる。この活性化状態が、持続的抗原刺激を反映していることを確認するため、TTワクチンで再刺激すると、活性化型のTT特異的B細胞が末梢血に現れることから、RAが確立した患者さんでは、CP抗原による刺激が持続していることを示している、

さらに、このような活性化型B細胞では、逆に活性化を抑えるCD32の発現が強く抑制されており、この結果自己抗体だけでなく、様々なサイトカインを発現していることが想定される。そこで、末梢血、関節腔から採取したCP特異的B細胞についてサイトカイン分泌を調べると、TNFαやIL-6などリュウマチ炎症に関わるサイトカインの分泌も高まっているが、何よりも好中球の浸潤を高めるIL-8の分泌が高まっていることを発見する。

以上が結果で、かなりオーソドックスな病態解析を通して、

  1. RA患者さんでは、シトルリン化タンパク質が、特異的にB細胞を刺激し続ける結果、自己抗体が作り続けられること。
  2. 活性化した自己反応性B細胞はCD80/86のようなT細胞刺激共刺激分子に加えて、HLA-DRを強く発現することで、持続的T 細胞活性化に関わること、
  3. また活性化されたB細胞はIL-8を分泌することで、好中球の浸潤を促し、炎症をたかめること、

がわかり、シトルリン化タンパク質に対する自己抗体がRAの原因でないにしても、RAの病態形成に重要な役割を演じていると結論している。実際、多くの自己免疫病で病態はT細胞も関わる複雑な炎症なのに、CD20に対する抗体でB細胞を除去することで改善するケースが多いことは、自己抗原によるB細胞の持続的刺激が、炎症持続の鍵になっている可能性が示されていた。

リンパ節などのリンパ組織は、ILCと呼ばれるB細胞によく似た細胞により誘導されるが、RAでも関節腔にリンパ節様の組織化された細胞集団が形成される。この研究ではリンフォトキシンについては調べていないが、この論文を読んで、自己反応性のB細胞が、ILC と同じような役割を演じている可能性は高いと感じた。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月1日 新型コロナウイルスが鼻かぜで抑えられる条件(12月23日号 Cell 掲載論文)

2020年12月1日
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新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の場合、感染抑制の鍵になるのは、無症状であるにもかかわらずウイルスを排出している人で、完全にウイルス感染が抑えられない限り、無症状の感染者の問題は、正直、国民全員のPCR検査を毎週でも行わない限り解決できるようには思えない。このことは、日本国内でも感染テストの証明書の利用がが様々な状況で浸透してきていることからもわかる。

ただ、無症状の感染者というと、ウイルスに対する免疫を直ちに獲得し、ウイルスを抑え込めた元気な人というイメージがあるが、これが全く間違っているという面白い症例報告が米国国立衛生研究所から12月23日号のCellに掲載された。タイトルは「Case Study: Prolonged Infectious SARS-CoV-2 Shedding from an Asymptomatic Immunocompromised Individual with Cancer (SARS-CoV2を無症状のまま長期間排出した免疫抑制治療中のガン患者さんについての症例報告)」だ。

症例はCoV2感染が重症化するリスクが最も高いと考える患者さん、すなわち高齢(71歳)、10年にわたって慢性リンパ性白血病の治療を続けており、転移で脊椎骨折で治療を受けたばかりの女性だ。女性という以外は、高リスクの典型で、治療の結果免疫能も低下している患者さんだ。

この女性は貧血で入院中、転院前のリハビリ病院でのCoV-2クラスターが発見されたため検査を受け、CoV2陽性と診断される。ただ、胸部CT写真を含め、自覚的、他覚的を問わず症状は全く存在しない。にもかかわらず、なんとその後105日間ウイルスを排出し続け、しかも70日間はPCRだけではなく、感染性のあるウイルス粒子が検出されている。症状がないので、実際には手の施しようがなく、ともかくウイルス排出を止める目的で71日目、82日目に回復患者さんの血清を注射している。この結果血中の抗体価は上昇しているが、残念ながらウイルス除去効果があったとは判断できないが、なぜか105日以降はウイルス排出が見られなくなったという結果だ。

症状がないため、患者さん側の検査はほとんど行われていないが、ウイルス検査はゲノム解析も含めて徹底的に行ったというアンバランスな報告だが、理屈はよくわからないが情報として考えるとCellに掲載しても問題はないと思うぐらい面白いと思った。

  1. この患者さんは無症状というだけでなく、ウイルスを鼻および喉の奥別々に採取して検査しており、最初から最後まで感染は鼻で止まっていることが確認されている。すなわち、完全に鼻かぜで終わるという状態が続いている。しかも、この状態を決めているのは決して免疫機能でないこともわかる。例えば、ACE2などの発現など調べたいことは山ほどあるが、理屈はともかく、今後無症状者のボランティアを用いた徹底的調査の重要性を示している。
  2. 回復者抗体を投与後もウイルスが排出され続けているので、抗体の効果がないように見えるが、結果をよく見ると抗体投与後は感染検査は陰性に転換している。もともと鼻粘膜にはIgGは到達しにくいのだろうが、しかし少しづつ効果を示した結果、ウイルスが除去されたとも考えられる。今後抗体治療が進んだとき、鼻粘膜感染への影響をさらに詳しく調べる必要がある。
  3. ウイルス学的に徹底的調査が行われ、100日間もウイルスが排出され続けると、ウイルスでも多くの変異が起こっていることが確認されている。この患者さんは、最初ワシントンで流行が見られた時のウイルスが感染しており、様々な変異体が分離できているが、他のウイルスを駆逐すると言った変異は見られず、その時々の一過性のウイルスと位置付けられる。スパイク分子N末端に大きな欠失のある変異も分離されているが、感染性については特に変化がなく、複製活性が高いウイルス変異が現れる確率が低いことがわかる。
  4. 免疫抑制がかかった患者さんは重症化しやすいと考えられてきたが、今回の結果は免疫抑制治療を受けているCovid-19患者さんの総合的な調査の重要性を示唆している。もし何らかの免疫抑制操作が、ウイルス感染を鼻かぜで抑えることに寄与するとすると、治療戦略も変わってくる。おそらく、ネットで呼びかけて症例が集められ、近い将来発表されるのではと期待する。

以上、不思議な1例だったが、ひょっとしたら新型コロナウイルス感染の理解に大きな貢献をするのではと期待させる症例報告だった。いつでも、症例報告は探偵心をくすぐり面白い。

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