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10月2日 次のパンデミックを予想し、備えることは可能か(9月30日 Cell オンライン掲載論文)

2022年10月2日

今回のCovid-19もふくめ、21世紀に問題になるエンデミックやパンデミックのほぼ全ては、なんらかの脊髄動物に感染が拡がっているウイルスが、様々な原因で人間に感染し、それが変異を重ねて感染性のウイルスへと変化することで起こっている。このことから、動物に感染しているウイルスの中から、次のパンデミックの原因となるウイルスを特定するための研究の重要性が強く認識された。すなわち、次のパンデミックの芽を動物感染の間に摘み取る、あるいは、感染が始まってもすぐに診断治療体制がとれるよう準備しておくことの重要性だ。人的資源と多くの研究投資が必要になるが、Covid-19で失われた経済的損失と比べると、おそらく微々たる額だろう。

このような取り組みのまさに好例となる論文が、米国国立衛生研究所とコロラド大学から、9月30日、Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Primate hemorrhagic fever-causing arteriviruses are poised for spillover to humans (サル出血熱アルテリウイルスは人間へと拡がる準備が整っている)」だ。

サル出血熱は実験用に輸入されたマカクザルから研究施設に拡がるウイルスとして知られており、致死性は高い。ウイルスはアルテリウイルスと称される RNAウイルスによる感染で、これまで人間に感染したという報告がないため、ほとんど研究が進んでいなかった。しかし、最近になってサル出血熱ウイルス(SHFV)が霊長類に感染することが明らかになり、virus of concern となってきている。

SHFVの場合、まず感染過程を明らかにしなければならない。これまでの研究でヘモグロビンのスキャベンジャー分子 CD163 が受容体として働いている可能性が示唆されていたので、CD163 のノックアウト、あるいは遺伝子導入実験より、CD163 がウイルスの受容体として働いていることを確認している。

ただ Covid-19 に対する ACE2 といった関係でないこともわかってきた。というのも、CD163 は表面蛋白質だが、細胞表面に出ずに細胞内小胞にとどまっている細胞でも、ウイルスは感染する。Covid-19 でも指摘されているが、マクロファージでは例えばマクロピノサイトーシスなどを介して細胞内へウイルスが取り込まれ、そこで CD163 と結合して、RNA が細胞内に侵入すると考えられる。

いずれにせよ、CD163 との結合が、種を超えた感染のバリアーになることは確認された。そこで、CD163 の配列を様々な種に変えて感染実験を行うと、たしかにマカク由来SFHV は新世界ザルには感染しないが、チンパンジーや、ゴリラ、そしてなんと人間の CD163 とも結合して感染することがわかった。

CD163結合性があっても、幸い血液から分離した白血球ではウイルスの増殖は見られない。従って、人間での感染事例がないのは、この抵抗性のおかげだと考えられる。ただ、細胞株を用いた実験を行うと、SU-DHL-1細胞ではウイルス増殖が見られ、CD163陰性の腎臓細胞でも CD163 を導入することで、感染し、ウイルスを増殖させることが明らかになった。

以上が結果で、現在アフリカをはじめ様々な地域で拡がっている SFHV は、まだ突き止められていないほんの少しの障害のおかげで人間には感染できていないが、この障害が取り除かれた細胞では簡単に感染増殖することがわかった。

やっかいなことに、ウイルスの CD163結合部位に対する抗体は、細胞内で効果を持つ必要があり、Covid-19 のようなワクチン設計でいいのかなど、解析しなければならないことは多い。

いずれにせよ、パンデミックの前に対策を用意するための研究は可能で、例えば企業コンソーシアムなども参加して、対策研究を進めることが大事だと思う。重要なのは、国に全ての対策を任すことがいかに危険かを認識することだろう。

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