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10月23日 夜食べると太る複雑な理由(10月21日号 Science 掲載論文)

2022年10月23日
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夜食べると太るというのは誰でも知っている事実だが、そのメカニズムはと聞かれると曖昧になる。実際には、食べた後動かないからと考えてきたが、例えば運動せずに一日中ゴロゴロしている場合は、夜も昼もいつ食べても差がないのかなど、結局知識は不足している。

今日紹介するシカゴ・North Western大学からの論文はこの当たり前と思っていた現象の理由を詳しく解析した研究で、10月21日号 Science に掲載された、タイトルは「Time-restricted feeding mitigates obesity through adipocyte thermogenesis(食事時間を制限することで脂肪細胞の熱生産を通して肥満が軽減される)」だ。

マウスは、昼休んで夜活動する。ただ、自由に食べられる環境では、我々が夜も食べてしまうのと同じで、マウスの場合、休んでいる昼も食べる。高脂肪食の場合1週間で食べ過ぎの効果がでる。

そこで、昼だけ、あるいは夜だけ高脂肪食を与えると、活動性は変化なく、昼食べたグループの体重が上昇する。この原因を代謝レベルで調べると、昼休んでいるときだけ食べさせたグループは、カーボンの代謝が低下している。

これらの結果から、既に多くの研究で示されてきた、代謝レベル自体が食事とは関係なく概日リズムに支配されているという法則に、食事時間が逆らった結果ではないかと着想し、脂肪組織で概日リズムが壊れるマウスを作成すると、昼食べても肥満は起こらない。

次に、概日リズムにより変化する遺伝子発現を調べるため、脂肪細胞だけを分離し、Atak-seq を用いてクロマチンの領域を調べると、概日リズムを支配する遺伝子及びその下流の遺伝子が、リズムに合わせて開いたり、閉じたりしているのを観察できる。その中の一つが、褐色脂肪組織で熱生成に関わる UCP1 遺伝子で、活動時の夜だけ染色体が開く。

UCP1 は、ミトコンドリアのプロトン勾配をショートさせるだけでなく、様々なメカニズムで脂肪での熱生産を上昇させるが、リズムに逆らった食事による肥満に最も重要なのが、アルギニンやグリシンからクレアチニンを通して熱産生を誘導する回路であることを、この経路の酵素をノックアウトする実験により確定している。

以上まとめると、概日リズムは UCP1 を介する熱生産の回路を通して、代謝をバランスさせているが、このリズムに逆らう食事の摂取は、特にクレアチンの合成を低下させ、そしてクレアチニンにより駆動されるミトコンドリアの活動低下により、熱産生が低下がおこり、その結果肥満に陥るというシナリオになる。

当たり前と思っていることでも、メカニズムを理解することがいかに重要かがわかる研究で、勉強した。まだまだ知らないことは多い。

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