アルツハイマー病 (AD) の発症率は女性の方が約1.7倍高い。最近の Tau 分子の蓄積を調べる PET 検査では、臨床症状のない女性でも、Tau の蓄積が男性より強いことがわかっており、女性の方が Tau が蓄積しやすいことがわかっているが、このメカニズムについては明らかでない。
今日紹介するクリーブランドの Case Western Reserve 大学からの論文は、Tau 分解の印としてつけられたユビキチンを除去する脱ユビキチン化酵素活性が高いと、Tau が蓄積しやすくなり、AD のリスクを高めること、そしてこの分子こそが女性で AD が発症しやすい原因であることを示した研究で、10月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「X-linked ubiquitin-specific peptidase 11 increases tauopathy vulnerability in women(X染色体上のユビキチン特異的ペプチターゼ11は女性のTau蓄積症発症リスクを高める)」だ。
細胞内での蛋白質分解にはまず分解する蛋白質にユビキチンの印がつけられるが、同時にこの印を外す酵素も存在し、細胞内での蛋白質分解過程のバランスが保たれている。AD に関わる Tau も、リン酸化されて重合が始まると、ユビキチン化され、プロテアゾームやオートファジー経路を通って、分解して、蓄積を抑えられている。この時、ユビキチンを外す酵素があると、当然分解が起こらなくなり、AD のリスク要因になる。
この研究では、神経系で発現しユビキチン化された Tau から、ユビキチンを外すペプチターゼをスクリーニングし、X 染色体上に存在する USP11 が、Tau 特異的にほとんどのユビキチンを除去する作用を持つことを突き止める。また、その結果、Tau の凝集も促進されることを示している。
では USP11 がユビキチンを外すだけでなく、何故より安定な Tau 凝集を促進するのかメカニズムを探索し、一度ユビキチン化された281番目のリジンのユビキチンを外す過程で、281番目と274番目のリジンがアセチル化され、その結果ユビキチンによる分解経路から隔離されることが、その原因であることを明らかにしている。
以上のことから、USP11 の発現が高いと、AD リスクが高まることは明らかになったので、次にこれが AD 発症の男女差の要因になるかを調べている。
まず AD では USP11 発現レベルが高い。そして、女性の場合 USP11 と Tau の蓄積はより強く相関しており、AD 発症していない個体の脳を比べると、USP11 が女性で高い。すなわち、人間で女性が AD 発症が高いのは、USP11 の発現が高いためである可能性が高い。
この結論をさらに確かめるため、USP11 遺伝子のノックアウトマウスを作成してみると、蓄積が促進される変異型 Tau マウスの海馬のシナプス可塑性が、USP11 ノックアウトで正常化すること、さらに認知機能も改善することから、USP11 が女性の AD 発症リスクに直結していることを強く示唆している。
以上が結果で、脱ユビキチン化酵素のレベルが女性の AD リスクを決めているという意外な結果で、面白い。それでも、新しい何故は生まれる。特に、脱ユビキチン化酵素は100以上あるのに、どうしてわざわざ X 染色体上の USP11 を Tau 脱ユビキチン化に使うようになったのか? アルツハイマー以上に、面白い問題が隠れているかもしれない。