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10月24日 ペストによる自然選択を解析する(10月19日 Nature オンライン掲載論文)

2022年10月24日
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ペストは、グラム陰性菌 Yersinia Pestis により発症する感染症で、我々の文明に最も深く関わってきた。実際、西暦500年、最初のペストが発生したプラハ(Plague)がペストの名前(plague)として使われている。古代ゲノム研究のおかげで、ペストは約5000年前から感染症として成立し、その後様々な変異を繰り返して1346年に始まるヨーロッパの大流行を引き起こす菌が生まれている(https://aasj.jp/news/watch/4277)(https://aasj.jp/news/watch/19901)。

ヨーロッパの大流行では流行した4年以内に人口の30−50%が死亡するという壮絶な結果をもたらし、人間の文明、文化に大きな影響を与えた。とはいえ、半分以上の人間は生き残り、その後は限定的な流行でとどまっている。ペストで死亡した共同墓地のゲノム解析から、現代のペスト菌とほとんど変化がないものの、大流行後 DFR4 と呼ばれる遺伝子が欠損し、毒性が弱まったと考えられる。

これに対し、人間側の変化もその後のパンデミック予防に重要な働きをしている。その第一が、衛生学、疫学の進歩だろう。とはいえ、短期間に半分近くの人間が死ぬようなパンデミックの場合、生死を分ける要因として、ゲノムの違いも当然考えられる。

今日紹介するカナダ・マクマスター大学と、米国シカゴ大学を中心とする国際研究チームの論文は、ロンドン及びデンマークで、大流行前、流行中、そして流行後の人骨を採取し、感染免疫に関わる多型の変化を調べ、ペストによる自然選択の影響をゲノムから読み解けるか調べた研究で、10月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Evolution of immune genes is associated with the Black Death(黒死病に関連する免疫遺伝子の進化)」だ。

研究では1348、1349年の2年間に死亡したことが確実な516体のゲノムから、まず DNA量が十分な360体を選び、ゲノムの中の免疫に関わる領域にのみ遺伝子キャプチャーし、こうして得られた3万近い多型の中から、パンデミック前後に大きな頻度の変化が見られた領域を特定している。

実際には245種類のコモンバリアントがパンデミック前後で大きく変化していることがわかったが、統計的検討から最も変化が大きな4領域に絞っている。それぞれの変化を見ると、ERAP遺伝子領域の多型は、なんと0.4から0.7へと上昇しており、他の領域でも頻度で1割の上昇、あるいは下降が見られる。この結果は、免疫に関わる遺伝子の様々な多型が、ペスト抵抗性に寄与したこと、そしてこれほど強い自然選択圧にさらされると、ゲノムレベルで選択が起こったことを確認できることを示している。

ただこれらの結果だけでは現象論に終わるので、このグループは実際にこれらの領域がペスト免疫に関わるのかどうかを、対応する遺伝子多型を持つ人を集めて実験的に検証している。

まず細菌感染の主体になるマクロファージにペスト菌を感染させたときに強く変化する遺伝子の中に、今回リストされた4領域7遺伝子は全て含まれる。次に、その領域にある一塩基多型と発現との関わりを調べると、例えばケモカインCTLA4 ではリスクの高い人では最初から発現が低い。

最後に、多型によりスプライシングが変化する ERAP2 と連関する一塩基多型 rs249794 に絞って詳しい解析を行っている。このペプチダーゼは、発現が高まるとペプチド合成が高まり、キラーT細胞活性を高めることが知られており、スプライシングの違いで獲得免疫が上昇することから、自然選択されるのも納得できるが、これだけでなく、サイトカインの発現に多型が関わることも明らかにしている。

例えばマクロファージ内のペスト菌が殺される効率は多型間で大きく変化し、それに対応して、様々なサイトカインの発現も変化することがわかった。すなわち、ゲノム情報が得られれば、実際に起こった自然選択のメカニズムを、実験で確かめることも可能であることが示されている。

ペーボさん達が開拓した古代ゲノムの研究は、次のパンデミックに備えるためにも役立っていると実感する。

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