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10月7日 分解されたコラーゲンによる膵臓ガンの増殖促進(10月7日 Nature オンライン掲載論文)

2022年10月7日
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膵臓ガンの特徴は、ガン周囲の線維芽細胞増殖と、コラーゲン合成を伴う強い間質反応で、他のガンに比べて膵臓ガンの予後が悪いのは、この間質反応が関わると考えられており、膵臓ガンの間質に関わる論文は何度も紹介してきた。しかし論文は数多く発表されていても、何が決め手かという整理は出来ていない気がする。おそらく、間質反応が強いと白血球浸潤は多くても、キラー細胞の浸潤が抑えられることが、ガンの予後に関わるというガン免疫からの説明はかなり確かそうだが、間質とガン自体の相互作用については、なかなか決め手がない。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、ひょっとしたらガンを促進する間質の重要な役割を明らかに出来たのではと期待できる研究で、10月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Collagenolysis-dependent DDR1 signalling dictates pancreatic cancer outcome(コラーゲン分解物による DDR1シグナルが膵臓ガンの予後と相関する)」だ。

これまで指摘されてきたことだが、この研究は膵臓ガンの予後に、膵臓ガンが発現するメタロプロテアーゼが関わり、これにより分解されるコラーゲン(cCol)の腫瘍組織での量が、やはり予後に関わるという現象からスタートしている。

この結果は、もしコラーゲンが分解できなければ、ガンの増殖を促進できないことを示唆しているので、メタロプロテアーゼで分解できないコラーゲンを発現するマウスを作成し、ガンの移植実験を行うと、ガン細胞の増殖が強く抑えられることを発見している。

すなわち、メタロプロテアーゼで分解されたコラーゲンはガンの増殖を促進し、逆に分解されないコラーゲン(iCol)はガンの増殖を抑制する可能性が示唆された。そこで、試験管内で両方のコラーゲンの活性を調べると、cCol はガン細胞のマクロピノサイトーシス(外部の分子を大きな小胞を形成して取り込む)を介して、ガン細胞の代謝を高めることが明らかになった。

次に、cCol が膵臓ガン細胞に作用するメカニズムを探索し、DDR1 と呼ばれるチロシンキナーゼ型受容体から、NFkb、p62。そして NRF2 と、炎症でおなじみのシグナルが活性化され、マクロピノサイトーシスが上昇と、ミトコンドリアの生成が亢進することを突き止めている。また、この経路を様々な方法で阻害すると、期待通りガン増殖促進を抑えられることを明らかにしている。

次に、分解されていないiColがこの経路を抑制するメカニズムについてもしらべ、iCol も DDR1 に結合できるが、結合により DDR1 はユビキチン化され分解されることから、受容体としての機能が抑えられることを明らかにしている。

結果は以上で、コラーゲンが切断されるか否かで、同じ DDR1 に結合しても真逆の結果をもたらすことを示し、これまでの膵臓ガン間質についての結果を統一的に説明する一つのとっかかりになるのではと期待できる。また、多くのガン治療標的も示されたので大きな期待が持てる。

実験の進め方はまさにプロの研究で、この研究を行っているのが M Karine というこのシグナル経路研究の大御所なので、納得する。

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