抗CD20抗体(リツキシマブ)は、悪性リンパ腫や骨髄腫などB細胞系の腫瘍に使われてきたが、この抗体でB細胞が傷害されるメカニズムは、NK細胞によると考えられている。一方NK細胞の活性化には、IL-2 や IL-15 と結合する β、γ 受容体が関わっていることもよく知られている。そこで当然考えられるのが、CD20抗体に IL-2 や IL-15 を結合させ、腫瘍細胞とNK細胞を近づけるだけでなく、腫瘍と結合したNK細胞を活性・増殖させ腫瘍をさらに効果的に抑制しようとする方法だ。このHPでも紹介してきたが、IL-2 や IL-2α 受容体と結合しない変異 IL-2 を結合させた抗体治療は臨床治験が行われるところまできているが、抗体と結合させても非特異反応を完全に防げないことがわかってきた。
今日紹介するドイツ・チュービンゲン大学からの論文は、IL-15α に全く結合できない変異 IL-15 を CD19 や CD20 に対するモノクローナル抗体に結合させると、特異性の高いNK細胞治療が可能な事を示した研究で、3月6日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Immunocytokines with target cell–restricted IL-15 activity for treatment of B cell malignancies(標的細胞上で IL-15 を活性化する免疫サイトカインによるB細胞腫瘍の治療)」だ。
この研究ではまず CD19 抗体に IL-15 を結合させると、CD19 抗体だけを使うより効率よく腫瘍を殺せる事を確認している。その後、構造に基づいて IL-15 の様々な変異体を作成し、この中から βγ 受容体への結合は残したまま、α 受容体との結合性を喪失した変異体を特定し、さらにNK細胞の細胞傷害性および増殖刺激活性を調べ、NKを特異的に活性化する変異体を特定するのに成功している。
次に、こうして作成した変異 IL-15 を anti-CD19 や anti-CD20 と結合させ、B細胞腫瘍とヒト末梢血との混合培養に加えると、末梢血内のNK細胞が増加し、強い腫瘍抑制効果を発揮することがわかる。
そこで最後に、免疫不全マウスにヒトB細胞腫瘍とヒト末梢血を注射。これに CD19 や CD20 抗体結合-変異 IL-15 を投与して主要抑制を調べている。普通の治療用抗体だけを投与するのと比べると、はるかに強い抗腫瘍活性が得られており、この方法で腫瘍に IL-15 を介してNK細胞をリクルートしてガンを抑制することが十分できる事を示している。
結果は以上で、示されたデータを見ると、完全にガンを消滅させるまでにはいっていない。ただ、ヒト末梢血をNK細胞ソースとして投与する実験系を用いているので、十分なNK細胞の供給が望めないのかもしれない。事実、末梢血の代わりにNK細胞を移植する実験系では、より強い効果を認めている。
NK細胞は特異性がない事、MHC 依存性がないことから、ガン局所にうまくリクルートしてやればこれまで以上に治療に使えるのではと考えられている。抗原特異的キラー細胞の場合、まずネオ光源を特定する必要がある。しかし、NKの場合、抗原にこだわる必要がない。さらに、他人のNK細胞でも働いてくれるので、迅速に免疫治療を行える点ではメリットがある。その意味で、NK治療に、ガン特異性を持たせる治療が有望なのは明らかで、これまでのリツキシマブなどの治療効果をさらに確実なものにしてくれる可能性があると思う。