手術後の縫合不全など、不断にモニターしたい状態は数多くあるが、傷を開放にして常に除くというわけには行かない。今日紹介する米国Northwestern大学からの論文は、超音波診断機を用いて組織内の様々な状態をモニターできる面白いアイデアで、3月8日号 Science に掲載された。極めて臨床的な材料研究が Science に掲載されたのは、そのシンプルさとアイデアの卓越性によること間違いない。タイトルは「Bioresorbable shape-adaptive structures for ultrasonic monitoring of deep-tissue homeostasis(深部組織のホメオスターシスを超音波診断機でモニターできる生体吸収性で形態適応性の構造)」だ。
生体に適合し、最終的に吸収されるハイドロゲルなら何でもいいのだが、この研究のアイデアは、それに一定数の金属粉末を円形に塗って超音波診断機で検出可能にしたことだ(百聞は一見にしかずで MedicalXpress の写真をご覧あれ:https://medicalxpress.com/news/2024-03-shifting-ultrasound-stickers-surgical-complications.html)。
要するに円形の金属粉を超音波で周りの組織から際立たせて超音波診断機で検出する。あとは、ハイドロゲルの特性を変えることで、pH の変化で膨張したり、溶けて無くなるように設計すると、深部組織で起こっている組織変化をリアルタイムで簡単にモニターできるというアイデアだ。
実際には pH が低くなると急速に膨張するハイドロゲルや、逆にアルカリ性で膨張するハイドロゲルを使うと、前者は胃の縫合部からの胃液の漏れを、後者は膵臓からの膵液の漏れによるハイドロゲルの漏れを、金属粉サークルの半径の拡大として検出できる。
設計通り pH に反応するかを試験管内で確認した TRAIL 、今度はラットの胃壁に設置して蠕動する胃でも、例えば縫合部位を跨いで切歯したセンサーを十分な解像度で検出できるか確認している。
その後、胃に穴を空けて胃液が流出するようにし、時間ごとに超音波診断機でこのハイドロゲルをモニターすると、20分ほどでふやけて拡大するのを超音波診断機で検出できる。ハイドロゲルの特性を変えてそれぞれの組織に会わせると、腸や膵臓でのリークを検出することが出来る。
最後に人間に近い大きさのあるブタで同じ実験を行うと、全ての臓器でラットよりはゆっくりしたペースで拡大するのを観察できる。実際ハイドロゲルを取り出して見ると、2倍ぐらいに拡大しているのがわかる。
勿論深いほど解像度は落ちるが、画像についてはコンピュータを使って様々に改良することが出来るはずだ。またこの程度の鉄粉や亜鉛粉で組織に問題が起こるはずはないと考えると、ただただ Good Idea というほかない。