アルツハイマー病(AD)に何らかの形で脂肪代謝が関わることは、APOE4 が AD のリスク因子になっていることからわかる。このブログでも APOE4 が AD に関わるメカニズムに関する研究を何度も紹介してきた。問題は、研究が進んだ結果、特定のメカニズムに集約するのではなく、現在のところ神経細胞が直接 LDL に結合する説、血管説、アストロサイト説、さらにはオリゴデンドロサイト説が発表されている。おそらく、中核となるメカニズムの様々な表れを見ているのではと思うが、まだまだ手探り状態と言えるだろう。
今日紹介するスタンフォード大学の論文は、もともと AD による炎症誘導の主役として研究されてきたミクログリアと脂肪代謝について再検討を行い、ミクログリア由来の脂肪が神経細胞に伝達され、神経変性を誘導する可能性を示唆する研究で、3月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「APOE4/4 is linked to damaging lipid droplets in Alzheimer’s disease microglia(APOE4/4はアルツハイマー病のミクログリア内の傷害性脂肪滴と関連する)」だ。
この研究では、APOE4/4 タイプと、APOE3/3 タイプの AD 患者さんの脳細胞を single cell RNA sequencing で解析し、特に APOE4/4 のミクログリアで脂肪滴形成に関わる ACSL1 遺伝子が上昇していることを発見する。そして、ACSL1 陽性細胞が AD で指摘されてきた脂肪滴形成ミクログリアであることを組織学的に確認している。また、脂肪滴形成ミクログリアの数と AD 症状とが比例することも示して、ミクログリアでの脂肪形成こそが AD の進行を決めると結論している。
次に、Aβ プラークから神経細胞死までの過程とミクログリアでの脂肪形成を調べるため、ミクログリアを沈殿 Aβ で刺激する実験を行い、Aβ 刺激により ACSL1 を始め様々な脂肪代謝に関わる分子発現が誘導されるとともに、自然炎症に関わる分子が発現することを明らかにしている。
この研究のハイライトはここからで、このように Aβ で活性化した APOE4/4 ミクログリアの培養上清を神経細胞に加えると、Tau 分子のリン酸化が起こり、さらに神経細胞自体に脂肪滴が現れるとともに、細胞死が誘導されるという結果だ。
すなわち、ミクログリアで脂肪滴が合成されると、LDL 粒子が形成されミクログリア外に分泌され、これが神経細胞に取り込まれて、Tauリン酸化や直接の毒性を介して、神経変性を誘導するというシナリオだ。そして、APOE4/4 はこの LDL分泌を促進する役割を演じていることになる。
以上が結果で、これが正しいと、APOE4 リスクの神経説、アストロサイト説などとも矛盾はないので、なんとなく集約してきたかなと言う感じがする。いずれにせよ、ミクログリアの脂肪形成自体は PI3K 阻害剤などでも抑制できる創薬標的になるので、期待したい。