私たちが人類進化を中学校や高校で習った時代は、まずそれらを原人と総称し、しかも別々の場所で発見された原人は、別々の種類として扱っていた。したがって、アフリカ・アルジェリアで出土した原人はアトラントロプス、北京原人はシナントロプス、そしてジャワ原人はピテカントロプスと呼んでいた。
現在では研究も進み、アフリカで250万年前に進化したホモ族が世界に広がったと考えるようになり、ホモ・エレクトスという名前で全てをひとくくりにするようになった。そしてそれぞれの年代測定から、アフリカ以外のホモエレクトスの最も古いのがグルジアドマニシの180万年、ジャワの70−150万年とされている。すなわち、エレクトスの進化の過程で世界中に拡大するためのさまざまな能力を人類が獲得したことになる。例えば男女の体格差が消失し、犬歯がなくなることから、食生活や社会生活が大きく変化したと考えられる。言語も発生した考えている人もいる。
このように、南の方ではグルジア地方のドマニシの180万年前、その後ジャワの150万年とエレクトスが出アフリカを果たした足跡を辿ることができるが、例えばハイデルベルグ原人や、北京原人のように緯度の高いところで生息していたエレクトスになると大体70−80万年前になり、その間のプロセスは明らかでない。
今日紹介するチェコ科学アカデミーとデンマークAarhus大学を中心とする共同研究は、ウクライナ西部、ハンガリー、ルーマニア国境近くのコロレボ発掘サイトの石器の解析と、宇宙線により発生するアイソトープを用いた年代測定などを組み合わせ、最も高い緯度でしかもヨーロッパで140万年前(すなわちヨーロッパ最古)のエレクトスの存在を特定したという研究で、3月6日 Nature にオンライン掲載されている。タイトルは「East-to-west human dispersal into Europe 1.4 million years ago(140万年前、人類は東からヨーロッパに侵入した)」だ。
一にも二にも、この研究のハイライトはヨーロッパ最古のエレクトスの痕跡を特定したことにある。まずアウストラピテクスが使用していたオルドワン型石器とともに、エレクトスから始まるあシューリアン型の石器が混在している。これはアフリカからレバノンにかけて見られる古いエレクトスの遺跡で見られる特徴を有している。
そして、地層中に存在する宇宙線により発生したベリリウムやアルミニウムの濃度から、年代を142万年前と特定している。さらに、この時期が氷河期の間の比較的暖かい時代と重なることから、最も活発にエレクトスが移動できたこと、そしてコロレボのようなヨーロッパの入り口にまで生活圏を広げられていた事を結論している。
これまで、エレクトスのヨーロッパへの移動はイタリアやスペインへの、南からの移動が中心と考えられてきた。これに対し、この研究ではジャワのエレクトスも含め、ユーラシアのエレクトスは、レバノンを通って出エジプトを果たし、コーカサスのドマニシをへて東から西に移動をはじめ、140万年前には、暖かい気候を利用して高緯度の領域まで到達していた事を示している。
以上が結果で、なかなかゲノムを用いた研究とまではいかない古代の領域だが、しかし人類とその文化の発達史を考える意味で、重要だ。この研究で一つの移動経路が示唆されたので、今後は示唆されたルートの発掘を地道に続ける他ないと思う。