人間の女性の一生で閉経は一つの通過点で、平均して寿命の42.5%を閉経後に過ごすことになる。エストロジェンの急速な上昇などを伴う生理サイクルは身体に大きな負担をかけ、さらに乳ガンの研究でもゲノム変異の原因となることを考えると、女性が長生きするためには閉経も合理的な進化だと考えられる。
とはいえ閉経が見られない動物は圧倒的多数で、チンパンジーの閉経後の寿命は全体の2%しかない。また、GPT-4で調べると長生きするようになったペットでもサイクルが乱れることはあっても生理は続くらしい。
では人間以外に閉経は存在しないのか?これまでの研究で、シャチやクジラで確認されている。米国シアトルにある WhaleResearch センターのウェッブサイト(https://www.whaleresearch.com/orcasurvey)によると、閉経後メスが娘や孫の生存に有利に働いていること、例えばサケの餌場を教えるなどの役割を果たしていることが書かれている。
今日紹介する英国のエクセター大学からの論文は、やはり閉経が見られることが知られているハクジラ類の中で閉経が存在する類とそうでない類を比較して閉経の生存優位性を調べた研究で、3月21日 Nature に掲載された。タイトルは「The evolution of menopause in toothed whales(ハクジラでの閉経の進化)」だ。
クジラの寿命や生態については、多くのデータがあるのはよくわかるが、はて閉経の存在をどうして調べるのか興味を持ち、この論文を取り上げたが、調査捕鯨などによりクジラを解体するとき、卵巣を調べると排卵の跡が残っているようで、生理の回数と寿命を比べることで閉経の存在や、閉経後の寿命を推定できる。納得。
この方法でデータが揃っている32種のハクジラを調べると、5種類のハクジラに閉経が認められ、それぞれは独立して進化していることがわかった。この中には当然研究が進んでいるシャチも含まれている。
これまでの研究から、閉経が進化した理由として6つの仮説が提案されており、これらについて検討が行われている。
第一の仮説は長生きのために生理のストレスを抑えたという考え方で、調べてみると閉経が存在するハクジラは全て、ハクジラ全体の平均を超えて長生きする。一方、生殖可能年齢は外のハクジラと同じだ。従って、積極的に閉経を早めたという説は否定される。
ではなぜ閉経後長生きが必要かだが、シャチで示されているように、孫世代、その母親と一緒に長く生活するのが観察される。一方、娘や孫を助けることは、生殖年齢を犠牲にせざるを得ないという可能性は、閉経のあるハクジラでの生殖が他のクジラ以上に効率的であることから否定される。
しかし、長生きして生殖能が維持されると、若い世代の生殖を抑制する可能性があるので、閉経が起こる原因になる可能性については、オスの生殖相手の選択行動からも支持される。一方、オスの寿命につられてメスの閉経が始まったという仮説は、閉経の存在するハクジラでは、メスの方が長生きするので、可能性なしと結論している。
以上が結果で、シャチでの研究があるので、結論へと導かれている気がするが、しかし32種類全てを比べたのがこの研究の売りだと思う。