今日紹介するブラジル Butantan 研究所からの論文は、完全な息抜きになる論文で、一般の人も十分楽しめる、少なくとも日本に住む我々がほとんど想像だにしない生き物の話で、3月8日号 Science に掲載された。タイトルは「Milk provisioning in oviparous caecilian amphibians(卵生のアシナシイモリのミルク供給)」だ。
まずタイトルにあるアシナシイモリだが、先日紹介したように爬虫類では蛇だけでなく手足のない種類が存在することは知っていたが、流石に両生類でそんな種がいるとは全く知らなかった。この論文の紹介がニューヨークタイムズで写真付きでされていたので、まずこのサイトにサーフして( https://www.nytimes.com/2024/03/07/science/caecilians-milk-amphibians-worms.html ) アシナシイモリの姿を見てほしい。熱帯の地下に適応したため、ほとんどミミズと同じ形で、体節形成時の節ができている。もちろん四肢は失っている。
今回研究されたアシナシイモリは卵生であるにも関わらず、メスが孵化した子供を2ヶ月にわたって育てる。この時、外敵から守るだけでなく、ミルク用の物質を皮膚に染み出させることで、餌を与えることが知られており、この結果孵化後急速に体重が増える一方、メスは子育てが終わると30%の体重を失うことが知られていた。
この研究では注意深い生態観察を続ける中で、皮膚に滲み出たミルクよりは、お尻のベントからミルクを分泌して、一種の授乳が行われている事を発見している。実際、子供はベントからミルクを飲むケースが圧倒的に多い。
このベントにつながるのが卵管で、授乳が必要な時期には乳腺のような上皮構造が発達し、ここに脂肪が存在することも確認している。
面白いのは授乳する1分前に子供が高い音を出して母親に知らせているようで、この音と母親の反応についてはまだメカニズムは明確になっていないが、哺乳動物で見られる母子間の相互作用に相当するものがすでに発達している。
最後に、ミルクの成分を調べると、49%がパルミチン酸、49%がステアリン酸で、長鎖脂肪酸がほとんどを占める。他にも上皮細胞が脱落したことによるタンパク質なども存在する。人間のミルクでは、32%がパルミチン酸、18%がスレアリン酸なので、十分以上にミルクとしての機能を果たせることがわかる。 以上が結果で、地球上にはいくらでも想像を超えた生物が生息している事を実感した。しかし、ジャングル歩きをしていて見つけたら、大きなミミズと間違うと思う。