老化した細胞を除去して新陳代謝を高める方法はsenolysisと呼ばれて、アンチエージングの切り札として研究が進んでいる。当然、血液幹細胞のクローン増殖、Y染色体脱落、メチル化 DNA の変化など、老化研究の進んでいる血液でも senolysis の可能性を追求した研究はあると思うが、不勉強なのかこれまであまり出会ってこなかった。
今日紹介するスタンフォード大学ワイスマン研からの論文は、老化に伴い増加する幹細胞集団を除去することで免疫機能の若返りを図れる可能性を示した面白い研究で、3月27日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Depleting myeloid-biased haematopoietic stem cells rejuvenates aged immunity(骨髄球にバイアスがかかった幹細胞を除去することで老化した免疫系を若返らせる)」だ。
ワイスマン研は表面マーカーを駆使した血液幹細胞の純化研究の先端を走ってきた研究室だが、この中で多能性幹細胞の中にも、様々な系列をバランスよく作れる幹細胞と、多核球や単球などの骨髄球系にバイアスのかかった幹細胞に大別でき、老化に伴って後者が増加することを発見していた。
この研究では、バイアスのかかった幹細胞 (bHSC) で発現が高い表面マーカーを特定して、これを用いて bHSC を除去することで、血液の老化を防止できないかという明確な目的に向かって研究が行われている。方法もまさに彼らの伝統を守り、フローサイトメータを駆使してマーカー探しを行なっている。
その結果、CD150、 CD62、NEO1 と呼ばれる bHSC に特異的表面マーカーを特定し、さらにこれらのマーカー陽性細胞が老化とともに上昇することを突き止める。そして、bHSC が増えることで、自然炎症に関わる探究などの産生が上昇し、IL1β などの自然炎症サイトカインが増加することも確認している。
次に、これらの表面マーカーを用いて bHSC を除去できるかの検討を行い、どの表面マーカーでも、細胞の貪食を阻害する CD47 をブロックし、さらに c-Kit 依存性の幹細胞増殖を弱く抑える(低濃度の c-Kit に対する抗体投与)、すなわち3種類の抗体を組み合わせて投与を行うと、老化に伴う bHSC の増加を抑制し、その結果骨髄球の産生が抑えられ、自然炎症が低下するとともに、HSC からリンパ球の産生低下を抑えることができることを示している。
この効果を確かめるために、フレンドウイルス感染系を用いて、ウイルスに対する抵抗性の低下が、抗体産生とT細胞免疫誘導で防げ、感染抵抗性が上昇するとともに、ワクチン接種の効果も高まることを明らかにしている。
最後に、ヒトでも同じマーカーを bHSC 検出に使えるか検討し、特に CD62 は老化とともに比例して上昇していることを明らかにしている。今後、single cell RNA sequencing などを用いて検討することで、ヒトの bHSC をさらに明確に分けることができるように思う。
以上が結果で、CD47抗体や cKit抗体を同時に用いるというのは人間では現実的でないだろう。ただ、bHSC のアイデアは面白いし、おそらく他の方法で、同じ状態を実現できる可能性はある。期待したい。