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11月3日 脳は夜洗われる(11月1日号 Science 掲載論文)

2019年11月3日
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2013年、睡眠は脳内のリンパ管などの脳脊髄液排出機構を拡げて、覚醒時に脳に蓄積した老廃物が排出されるのを助ける役割があることを示した論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/608)。すなわち、脳に溜まったゴミが夜洗われていることを示唆している。そして、この洗濯がうまくいかないとβアミロイドが蓄積しているという論文も発表されている(http://aasj.jp/news/watch/8330)。ただ、このことを人間で調べることは簡単でない。

今日紹介するボストン大学からの論文は脳の洗濯が人間でも起こっているか、MRIと脳波計を用いて、睡眠中に脳の神経活動、血流量、そして脳脊髄液の流れを同時計測して調べた研究で11月1日号のScienceに掲載された。タイトルは「Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep(人間の睡眠中には電気生理学的活動、血流動態、そして脳脊髄液振動が同調している)」だ。

この研究の鍵は、機能MRIで通常の脳内血液のヘモグロビンを造影剤のように用いて測る血流量、血液量、酸素代謝などが反映されたBOLDの計測と同時に、脳室に焦点を当てて脳脊髄液の流れを同時に測定できるようにした点だ。残念ながら、具体的な方法については理解していない。しかしMRI検査というと受ける側にいる私から見ると、脳波と機能MRIを同時に、しかも睡眠中に測定できていること自体驚きだ。

しかしこれが可能になるといつ脳脊髄液の流れが活発になるかを見ることができる。脳脊髄液は常に動いているが、MRIのシグナルとしては小さな波として現れる。ただ、覚醒時には振幅が小さく、周波数が高い振動が持続的にみられるが、ノンレム睡眠に入ると振幅が大きく、ゆっくりした周波数の波が現れることがわかった。また、これが脳脊髄液の流れを反映していることも脳室の入り口での測定で確認しており、この結果からノンレム睡眠に入ると大きな流れが生じることを示している。

次に、脳脊髄液の大きな流れと、BOLDの変化、そして脳波の変化の時間的関係を詳しく調べ、まずノンレム睡眠に入ることで、脳波にslow デルタ波が発生すると、BOLDが急速に低下する。その後数秒して、今度は脳脊髄液の大きな振動が始まることを示している。

結果は以上で、残念ながら何故このような関係が成立するのかについてははっきりしないが、現象論的には鍵となる要因が明らかになった。今後動物実験で、脳波の変化から脳脊髄液の変化までの過程に関わるシグナルを明らかにする必要があるだろう。何れにせよ、寝ている間に脳が洗われているという概念はますます現実味を帯びてきた。

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