11月29日5時半ぐらいから、最近多くの論文が発表されている、相分離による分子機能についてジャーナルクラブを提供する予定にしている。これは、昨年までJT生命誌研究館で一緒だった平川さんから是非ジャーナルクラブで取り上げて欲しいというリクエストに応えたもので、実際には物理化学的な側面は無視して、相分離がどれほど流行っているのかを紹介できたらいいと思っている。
いずれにせよ、相分離はスーパーエンハンサーやクロマチンの濃縮など、特定の分子が濃縮される過程を、一定の濃度に達すると周りの液相から分離して自然に濃縮する、相分離をおこすタンパク質固有に備わった性質で説明しようとするもので、おそらく生命現象の様々な過程に利用されていると思う。全く根拠はないが生命が生まれる時も、この過程により様々なタンパク質が濃縮されたのかもしれない。その意味で、当分は相分離に関わるタンパク質探しと相分離調節機構を調べる研究は続くだろう。
今日紹介するドイツ・ドレスデンのマックスプランク分子細胞生物学・遺伝学研究所からの論文は接着に関わるタンパク質が濃縮されているタイトジャンクション形成にZO1、ZO2タンパク質の相分離が関わることを示した研究で10月31日号のCellに掲載された。タイトルは「Phase Separation of Zonula Occludens Proteins Drives Formation of Tight Junctions (閉鎖帯タンパク質の相分離がタイトジャンクションの形成を駆動する)」だ。
この研究ではタイトジャンクション(TJ)ができる時、閉鎖帯タンパク質、ZO1とZO2が相分離するのではという仮説から入り、まずZO1/2が経口標識された細胞を作り、細胞質のZosの濃度を測ると、TJでは80倍に濃縮されることを確認、相分離が存在すると確信している。
次に、TJを作らない細胞で大量にZosを発現させると、期待通り細胞質内で相分離した液滴を形成する。また、アクチンの重合を阻害すると、それまで線状に分布していたZO1が水滴状に変わることを示して、アクチンによりこの分布が決められていることを示している。そして、精製してきたZosタンパク質が一定の濃度になると試験管内で相分離した液滴を作ることを明らかにする。
この一連の実験が、この研究のハイライトで、あとはZosタンパク質が相分離する様々な条件を探り、最終的に細胞膜状でTJが形成される過程を解析している。これは詳細に及ぶので全部省いて、最終的に到達したシナリオを最後にまとめると次のようになる。
まずZO1/2は細胞同士の接着班が形成されるとそこに急速に集められる。そして一定の濃度に達すると相分離を起こすが、この時リン酸化や2量体形成などを通じた相分離を止める仕組みをZOsは持っており、タンパク質が開いた構造をとるようにこの過程を調節することで相分離に必要な閾値が決められる。
一旦ZOsが相分離を始め足場が形成されると、クロージンやオクルージンなど、亡くなった月田さんたちがクローニングしたタンパク質が分離した液滴に集まる。これにより重要な分子が、TJ部分に相分離した足場に濃縮して最終的にアクチンなどと結合することで連続したTJを形成する。
月田さんや竹市さんから、美しい接着部位の細胞構造の写真を見せられてきたが、確かに相分離を頭に入れると構造がより理解できる気がするから不思議だ。