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11月25日 音楽の普遍性と多様性(11月22日号Science掲載論文)

2019年11月25日
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最近バロックオペラが演奏される機会が増え、しかもかなり現代的な演出で聴衆と舞台の一体感が感じられるように努力がはらわれているのがよくわかるのだが、なかなか成功していない。ところが、最近パリで見たバロックの作曲家ラモーのオペラIndes Galantesでは、アフリカ系のラップダンサーに自由に踊らせることで、ヨーロッパのバロック音楽でラップダンスが踊れることを示し(https://www.youtube.com/watch?v=TfQJZ76WR0U)音楽の普遍性を強調するだけでなく、客席との一体感を演出するのに成功していた。

このように私たちは、音楽が多様であることを知っているが、一方で必ず普遍性が存在し、民族を超えて理解できると信じている。この問題を研究するための「歌」を集めたデータベースについて音楽の都ウイーン大学のグループが11月22日のScienceに掲載している。タイトルはズバリ「Universality and diversity in human song(人間の歌の普遍性と多様性)」だ。

この研究はデータベースを作ったということが最も重要で、データの解析については今後さらに深めることが必要だと思う。さて、データベースだが2つの柱からできている。歌のデータベースというとどうしても録音をデジタル化して、簡単な説明をつけるという形式で行われてしまうが、この研究では記述型のデータベースを重要視しており、世界60地域に存在する315の小さな伝統が生きているコミュニティーから、4079種類の歌を集め、それを民俗学的に解析して記述したデータベースを作っている。これにより、解釈のバイアスはあるとはいえ、歌の内容や歌われる背景を容易に検索できるようにしている。

このデータを、宗教性、興奮性、儀式性の程度でプロットすると、例えば愛の歌と、ダンスの歌、子守唄、さらにはヒーリングの歌と、見事に分離する。すなわち、民族を超えて同じ特徴を持つことがわかる。このグループだけでなく、これまでの研究でも音楽を持たない民族は見つかっていないことから、音楽は人間に普遍的な活動であると結論できる。

この記述的データベースをバックアップするため、これらの歌をレコーディングしてデジタル化するとともに、楽譜にも書き写したデータベースを作成している。また、音や楽譜とともに、その地域の人にその歌を聴いた時の様々な感情を、そして音楽の専門家による音やリズムの解析も加えて、検索がしやすいようにできている。

この音源を用いると、歌の内容を他の文化の人が理解できるかを調べることで音楽の普遍性をはかることができる。この結果、文化が異なっていても、また伝統音楽を聴き慣れているかどうかにかかわらず、歌の背景をある程度推察することが可能で、歌の意味がわからなくても音楽には普遍的な構造があることがわかる。

また歌を専門家に聞かせてその調性の中心音の複雑さなどを歌の構造解析も行わせている。専門家による分析でほぼ同じ構造が示されることから、音楽の構造上も普遍性があることがわかるとしている。

また同じカテゴリーの歌の多様性はリズムの複雑さと、メロディーの複雑さでプロットすると、カテゴリーによるクラスターは存在せず、どのカテゴリーでも、その構造を保ったまま、単純から複雑まで、リズムとメロディーで多様性が生まれることを示している。すなわち、カテゴリーは音の調性や強さ、音素の数など構造的に決まるが、その範囲で多様な表現がリズムとメロディーで可能なことを示している。

またこのリズムやメロディーの複雑性が高いほど、そんな歌が歌われることはなくなっていることから、なぜ複雑化していくのかは重要な今後の問題になる子をと示している。

このように解析は始まったばかりで、面白いデータベースが作成され、公開されたということが重要だ。しかも、デジタル化され機械学習などコンピュータによる解析が可能になっていることが重要だと思う。音楽の都ウイーンから世界への贈り物が届いたとまとめておく。

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