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自閉症の科学 34 : 睡眠障害に対する家庭での対処

2019年11月30日
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今月も自閉症スペクトラム(ASD)に関する多くの論文を読んできたのですが、これは重要だと思える論文を見つけることができませんでした。そこで、ASD児を持つ多くの親がおそらく共通に感じていると思われる、睡眠障害を取り上げ、自閉症の治療を目指す米国の団体Autism Speaksが作成した眠りにかんするガイドラインを紹介することにしました。

ASD児の多くは睡眠障害を抱えている

2015年に発行されたSeminars in Pediatric Neurologyに掲載されたZimmermanの総説を読むと(Vol22, Pages 113-125: http://dx.doi.org/10.1016/j.spen.2015.03.006)、ASDの子供を持つ両親のなんと50-80%が、子供の睡眠異常に気づいていることを報告しています。症状ですが、「寝つきが悪く、就寝中なんども起きるので、睡眠時間が短くなる」とまとめられます。

なぜ睡眠障害がおこるのか、様々な仮説に基づいた研究が行われていますが、はっきりしたことはまだまだよくわかっていないと言っていいでしょう。原因がわからないということは、根本的治療はまだ開発できていないということです。このため、現在行えるのは症状に合わせた治療法だけです。例えば米国では重症の子供に対して、睡眠サイクルに関わる脳内物質メラトニンを睡眠前に投与することが行われていますが、おそらくメラトニンが買えない我が国では、薬物を使う治療は一般的ではないと思います。

しかし、睡眠時間が足りないことは、ASDの症状に影響するという報告があります

今年の10月に発表された台湾での6832人の調査研究によると、ゴール達成のために自分の行動や周りの状況を判断し、適切な行動を選ぶ時に必要な実行能力が、睡眠不足により障害されることが示されています(Tsai et al, Psychological Medicine 2019: https://doi.org/10.1017/ S0033291719003271)。

また、比較的症状の軽い7-13歳のASD児についての調査ですが、英国ヨーク大学のグループは、脳波を測る装置を睡眠中に装着してもらって(通常のASD児では寝ている時にこのような検査を行うことは簡単ではありません)睡眠の状態を測るとともに、聞き言葉を判断する検査を行い、ASDの症状の中でも、睡眠、特にREM睡眠の量が言葉の学習効果と相関することを示しています(Victoria et al, Journal of Speech, language, and hearing research 2019: http://eprints.whiterose.ac.uk/149777/ )。

このように、ASDの子供の睡眠時間を少しでも延ばすことは本当に重要です。言い換えると、睡眠が不足することでよりASDの症状が重くなる心配があるのです。ではどうすれば睡眠時間を伸ばせるのでしょうか?もちろん簡単なことではないのですが、家庭でできる方法についてAutism Speaksはうまくまとめてくれているので、以下にまとめてみます。

図1ASD児の睡眠を改善する方法についてAutism Speaksから発行されているパンフレット

1、快適に眠れる環境をつくる

  • 寒すぎず、暑すぎず、外の光がカーテンなどで遮られた、暗い部屋(すこしは薄明かりはあるほうがいい)。
  • ASD児はちょっとした音の変化に敏感なだけでなく、普通なら睡眠を誘うwhite noiseにも敏感なので、兄弟からも離れた静かな部屋で睡眠できるのが望ましい。
  • パジャマを着た時の感触も睡眠に影響するので、タイトなパジャマがいいのかルーズなパジャマかなどいろいろ試してみる。

2、決まった時間に寝起きする習慣をつける

まず、寝る時間と起きる時間をできるだけ守る習慣をつける。そして、寝る前はなるべく身体的な興奮を避け、テレビやゲームをやめて、寝る準備を15-30分かけておこなうようにする(例えば1歳児では15分ぐらい、もう少し大きくなると30分ぐらい。ただあまりに長すぎると逆効果で、準備に1時間もかけるのは間違い)。

3、寝るための準備についてのコツ

パジャマを着る、トイレをすます、手を洗う、歯を磨く、水を飲む、本を読み聞かせる、ベッドに入ると言った寝るまでのセットを決めて、毎日その順番を変えずに、静かに行う習慣をつける。

この時、トイレや手洗いの後のセットは全て寝室で行うようにする。

この順番を絵に描いて部屋に貼って子供にもわかってもらうとより有効。

それぞれの行動の中でどうしても子供が興奮しやすい行動がある場合は、その行動を寝る準備のセットから切り離す方がいい。

4、寝起きの時間を決めることの重要性

決まった時間に寝て、また起きることは大変重要。しかし、子供が成長すると寝る時間は遅くなっていく。しかし、出来るだけ寝起きの時間が1時間以上遅くならないように教える。

子供の習慣にあわせて、親も同じようにできる限り規則正しい生活をおくるよう心がけるのも重要。

昼寝をする場合も、できるだけ決まった時間に取るように心がけ、また可能なら昼寝も同じ寝室で行う。

昼寝の場合は4時までには起こす。十分成長して昼寝が必要なくなったら、昼寝は逆に夜の寝つきを妨げるので避けた方がいい。

規則正しい睡眠にとって、食事の時間が一定していることも重要。夜遅い時間のおやつなどはできるだけ避けるが、炭水化物の多いスナックなどは眠りを誘う効果があるので、ほどほどに使うことはよい。

5、子供が一人で寝られるよう辛抱強く教える

大人も子供も睡眠中に何回も目が覚める。そんな時、普通はまた寝入ってしまうが、一人で寝られない子供は、その度に誰かを頼ることになる。その意味でも、自分一人で寝られるよう教えることは大事。

ではどのように教えればいいのか?

添い寝が必要な子供の場合、自分で寝る習慣がつくには何週間もかかる。まずは添い寝をする時、横に寝るだけでなく、ベッドに座る時間を設けるなど、少しづつパターンを変えてみる。それが成功したら、次は添い寝をやめてベッドの横に椅子を置いて見守るようにする。この間、話しかけたり、見つめたりする時間を減らしながら、椅子を徐々にベッドから離していく。これで様子を見ながら、最初から部屋にいない日を増やしていく。

途中で子供に呼ばれても、部屋にいる時間をできるだけ短くするよう心がける。夜中に起きた場合も、同じようにふるまう。

図2 一人で寝る習慣をつける時に使うクーポン(Autism Speaksのパンフレットより)

成長した子供の場合、就寝中に両親に何かしてもらう時には、図のようなクーポンを使うのも一案。寝る前にこのクーポンを何枚か渡して、夜中に親を呼んだり、抱いてもらったり、親に頼った場合は親にクーポンを返すようにさせる。もしクーポンを使わなかったら、朝に褒美が貰えるようにして、徐々にクーポンを使わず一人で寝る習慣をつける (このようなクーポンも使ったASD児の睡眠プログラムの効果を確かめる、科学的な臨床治験がカナダで進められています(Papadopoulos et al, BMJ Open 2019: doi:10.1136/ bmjopen-2019-029767 )。

6、日中も夜の睡眠を考えて行動する。

睡眠に最も効果が高い行動は日中の運動で、もし学校では運動が足りないと感じたら、家に帰った後も運動するよう指導する。ただ、就寝前の運動は興奮して逆効果になるので、少なくとも身体的運動は睡眠の2−3時間前にはやめるよう教える。

コーヒーやお茶だけでなく、ソーダやチョコレートにもカフェインが入っており、食べた後3−5時間効果を発揮するので、夜はカフェイン入りの食べ物は口にしないよう指導する。

7、兄弟姉妹への影響

一般的に、規則正しい生活を一緒に続けることは、典型児の兄弟姉妹にとってもいい影響がある。また、ASD児の兄弟のために何ができるのか一緒に考えさせることも重要で、できるだけ多くの時間を一緒に過ごした上で、それぞれが就寝しやすい環境を探ることが重要。

以上、私なりに脚色して書いています。同じことが日本の住環境で十分可能かどうか、様々な工夫が必要だと思いますが、ぜひ参考にして自分の家族用のプログラムを作ってください。オリジナルの文章はAutism Speaksのホームページよりダウンロードできます(https://www.autismspeaks.org/tool-kit/atnair-p-strategies-improve-sleep-children-autism)。英語もわかりやすく書かれていますので、Google翻訳なども使いながらぜひ読んで欲しいと思っています。

11月30日 GPR146は動脈硬化防止の標的になるか?(11月27日号 Cell掲載論文)

2019年11月30日
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20世紀の終わり、ヒトゲノムが解読されつつある時、様々な病気と相関がある遺伝子多型のリストが急速に拡大した。このトレンドは、最近の公的バンクの整備により100万を超える対象を調べられるようになると、さらに加速している。ただ問題は、多型を分子機能と対応させるためには、動物実験も含めた丹念な実験が必要で、多型解析の成果を臨床に生かすまでの道は長い。

今日紹介するハーバード大学からの論文は高脂血症に相関づけられていたGタンパク質共役型受容体GPR146がコレステロールの分泌に関わることを突き止めた研究で11月27日のCellに掲載された。タイトルは「GPR146 Deficiency Protects against Hypercholesterolemia and Atherosclerosis(GPR146の欠損は高コレステロール血症と動脈硬化を防止する)」だ。

この研究は血中コレステロールの濃度と関連するrs11761941の下流に存在する遺伝子が薬剤の開発が可能なGタンパク質共役型の受容体GPR146であることに気づき、これが高脂血症治療の治療標的になるのではと着想する。

この可能性を確かめるため、まずGPR146が欠損したマウスを作成すると、HDL, IDL/LDL,及びVLDLと全てのコレステロールレベルが低下することがわかった。すなわち、コレステロールを下げるという意味では、新しい創薬ターゲットになる。

あとはメカニズムを詳しく調べているが、簡単に想像される経路はほとんどノックアウトで影響されず、解明に結構時間がかかったようだ。しかしともかく、細胞レベル、及び個体レベルで納得いく経路を特定している。それをまとめると次のようになる。

まずこの受容体が刺激されると、ERK1/2分子を介して細胞内のコレステロールを感知する転写因子SREBP2を活性化、SREBP2が核に移行してコレステロール代謝酵素などの転写を高め、最終的にVLDL分泌上昇、高コレステロール血症が起こるというシナリオだ。すなわち、コレステロールの代謝経路に関わる分子の転写調節の核と言えるSREBP2の活性をさらにチューニングするシステムであることを明らかにしている。

またLDL受容体が欠損したマウスで起こる動脈硬化を防止できることも示しており、この受容体が高脂血症治療の重要な標的になりうることを示唆している。

結果は以上で、多型解析の結果を創薬などと結びつける研究がようやく進み始めたことを実感させる研究だ。ただ、結局この下流にスタチンのターゲットであるHMGCRも存在しており、これを超える安全な化合物を開発できるかはまだまだ予想できないように思える。少し様子を見よう。

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