先日YoutTubeでKRAS標的薬の配信をした時、聞き手になってくれた岡崎さんから、トリプルネガティブのステージ4の患者さんの一人が、anti-PDL1治療で長期間再発無しに過ごしておられることを聞いた。不勉強で、、BRCA変異がある場合はともかく、トリプルネガティブ乳ガンで突然変異数が高まっていることを知らなかったが、それにいち早く気づいて許可されたテセントリクがまず成功を収めたようだ。しかしオプジーボなど他のチェックポイント薬も続いてくると思う。
まさに、免疫チェックポイント治療の前に、まだまだ大きな海が広がっていることを示しており、ぜひ薬価の方を大胆に下げるぐらいの気持ちが欲しいともう。 とはいえ、最初からこの治療の問題として指摘されているのが、どのようにチェックポイント治療が有効な免疫が成立しているガンを見極めるか、あるいは 免疫を誘導するかになる。そのためにはできるだけ人間に近い実験モデルも重要で様々な試みが行われている。
今日紹介するノースカロライナ大学からの論文はトリプルネガティブ乳ガンモデルを作成して、人間の症例と比べながらチェックポイント治療の必要条件を調べようとする研究で11月14日号のCellに掲載された。タイトルは「B Cells and T Follicular Helper Cells Mediate Response to Checkpoint Inhibitors in High Mutation Burden Mouse Models of Breast Cancer (B細胞と濾胞ヘルパーT細胞が突然変異数を上昇させた乳ガンモデルのチェックポイント治療に関わっている)」だ。
詳細は省くが、この研究のハイライトは、人間に近いトリプルネガティブ乳ガンを発生するマウスを作成し、さらにこの系にApobec3Bの過剰発現やBRCA1の欠損を加えて突然変異の頻度を増やしたガンを作成したことだと思う。ヒトのガンの解析から、突然変異が多いほど免疫が成立しやすいことはわかっていたが、思い返してみてもこの条件をマウスガンモデルで作り直した研究は思い出せない。
結果は明確で、どんな方法でも突然変異が増える変異があると、チェックポイント治療の効果が高まることを明らかにしている。 その上で、ガン組織の遺伝子解析を行い、B細胞とT細胞がともにガン組織に存在することが効果が得られる重要な要因であることを発見している。また同じことが、人のガン組織でも得られることをデータベースサーチから確認している。
あとは詳しい浸潤リンパ球の解析を行い、これまで注目されてきたCD8T細胞の増加以外に、濾胞型ヘルパーT細胞とB細胞が同時に増加すること、また両方とも抗原特異的クローン増殖であることがチェックポイント治療の効果が見られたガン組織の特徴であることを示している。 最後にガンマウスモデルを用いて、濾胞型T細胞やB細胞を抗体で除去する実験を行い、確かにCD8T細胞だけでなく、全ての細胞がガン免疫に働いていることを明らかにしている。
突然変異数と免疫を調べられる乳ガンモデルを作成したこと、他のリンパ球サブセットの重要性を明らかにしたことは重要だと思うが、わが国ではまだ認められていないPD1とCTLA4の併用を最初からチェックポイント治療の標準においている点など、いろいろ問題も感じる研究だ。ただ。モデルマウスの重要性は再認識した。