大人の脳でも、卒中や手術で失われた機能をかなり回復させられる。すなわち、新しい脳回路を開発できる可塑性を有している。しかし、この能力で見ると小児の可塑性は大人の比ではない。このことは、てんかん発作を止めるために片方の脳半球をほぼ完全に切除した小児を調べることでわかる。もちろん最初は左右の脳半球を使う感覚や運動が失われるが、例えば視覚などの能力はかなり回復させることができる。さらに、言語能力のような高次機能は、正常に発達することが知られている。
今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は、6人の大脳半球切除を受けた子供(3ヶ月で手術した子供を除くと、手術は4−11歳と、言葉が始まってから行われている)の脳のネットワークをMRIで詳しく調べた論文で11月19日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「Intrinsic Functional Connectivity of the Brain in Adults with a Single Cerebral Hemisphere(片方の大脳半球しか存在しない成人脳の機能的結合性)」だ。
研究ではまず機能的MRIでの血流の上昇の同調から各半球200に分けた区分間の結合を調べ、さらに安静時の各部位からの神経の伸びる方向性を解析するテンソルMRIが、機能的結合と一致することを確認し、脳のネットワークを7種類の基本ネットワーク(視覚、運動 などなど)に分解している。このネットワークを基礎にして、片方の脳しか残っていない患者さんでの神経結合と、正常の脳の結合を調べている。
成人するまでに残った方の半球で新しい脳回路が形成され、失われた半球の機能をできるだけ代償していると考えられるが、どの程度のリモデリングが起こっているのかが最大の焦点になる。
まず大事なことは、このようなネットワーク内、ネットワーク間の結合性は個人によって大きく異なり、脳がいかに多様であるかを物語っている。このことを念頭に半球切除した人の結合を見ると、驚くことに、視覚も含めてそれぞれのネットワーク内での結合性はほとんど正常範囲内で収まっている。しかし、異なるネットワーク間の結合性を調べると、片方が欠損した人たちは、結合性がかなり上昇している。
面白いことに、何か特定のネットワーク同士の結合が高まるというより、全体にネットワーク間の結合が上昇しており、それぞれの上昇の程度は6人それぞれまちまちであることも明らかになった。しかも、上昇した結合のマップは、正常の人とはかなり異なり、片方の脳の欠如を補うための特異的な変化が見られることがわかった。
以上がこの研究からの重要なメッセージで、なるほど脳はそれぞれの問題を回路開発で解決していると納得してしまう結果だ。しかしよく考えると、せっかく新しい回路の詳細がわかるのだとすれば、新しい回路の機能的側面を示す努力があっても良かったと思う。おそらくこれからの研究だと思うが、これがないと、「なるほど人間の脳の可塑性はすごい」と終わってしまうだけだ。しかし、医療の進歩のおかげで、ほとんど想像もできない脳の状態に遭遇できることは確かで、今後このような患者さんの承諾を得て、詳しく調べることで、新しいリハビリテーションの手がかりが得られると期待される。