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11月11日 肺線維症治療の新しい可能性(10月30日号Science Translational Medicine 掲載論文)

2019年11月11日
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最近の論文を読んでいると、これまで対策のなかった様々な病気について、メカニズムに基づいた治療法の開発が進んでいるのを実感する。例えば肺線維症で見てみると、肺の繊維化を誘導するEphrinB2の生成を止めるADAM10阻害薬、老化線維細胞を除去するダサニチブ+ケルセルチンなど、新しい発想で期待できると思う。しかし、肺線維症に罹患した友人や、治療法の開発を望まれる患者さんたちのメールを読むと、これらの治療法が本当にベッドサイドに届くのには時間がかかり、患者さんたちはもどかしい思いをしているのがわかる。しかし、それでも私ができるのは論文を読んで期待できる治療法を説明することだけだと開き直るしかない。

今日紹介する米国メイヨークリニックからの論文は、肺線維症の増悪要因の一つに肺内で作られるドーパミン量の低下があり、これを補うと肺線維症の進行を止められる可能性を示した研究で10月30日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Selective YAP/TAZ inhibition in fibroblasts via dopamine receptor D1 agonism reverses fibrosis(線維芽細胞でドーパミン受容体D1刺激を介してYAP/TAZ を選択的に阻害すると繊維化を元に戻すことができる)」だ。

細胞の機械的刺激に関わるシグナルYap/Tazの肺線維症への関与が最近認識されるようになっており、このシグナルを抑制して肺線維症を直せないか試みが続いている。ただYap/Taz経路は様々な上流で動くため、線維芽細胞特異的にこの経路を抑制するのは簡単ではない。そこで、Yap/Tazシグナルのオン・オフに関わることが知られているGタンパク質共役型受容体の中で、肺の線維芽細胞に特異的に発現している受容体を探し、ドーパミン受容体D1(DRD1)を突き止める。

次にDRD1のアゴニストであるDHXを肺線維症患者さんの線維芽細胞に加えるとYap/Tazシグナルを抑制できること、さらには試験管内の系で患者さんの線維芽細胞をTGFβで刺激する実験系で見られる細胞外マトリックスの酸性と沈着を抑えることを示している。

次に、ブレオマイシンを投与したマウスに誘導される肺線維症モデルにDHXを投与すると、肺線維症の進行をおさえ、さらには肺の病理像もほぼ正常に回復させられることを示している。また、マウスに投与する実験で肺の線維芽細胞のみでDHXによるYap/Taz阻害が見られ、他の細胞にはほとんど影響がないことを示している。

この効果は肝臓の繊維化でも見られる。また、Yap/Tazを抑えるのはDRD1だけでなく、セロトニン受容体5-HT7でも同じ効果が得られることも示している。

これらの結果は局所でのドーパミンシグナルが肺の線維芽細胞の活動を調節し、この異常が肺線維症の悪化要因になることを示している。そこで、特発性肺線維症患者さんの肺でドーパを産生する酵素を調べ、DDCと呼ばれる酵素が肺線維症で低下していることを示している。

以上が結果だが、新しいメカニズムと治療法を示唆する力作だと思う。肺の場合吸入で投与ということも可能なので、是非早く臨床に有効かどうかを調べて欲しいと思う。

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