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11月21日 満腹感はどこからくる(11月14日号Cell 掲載論文)

2019年11月21日
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光遺伝学が開発されてから、食欲など動物の行動や快感に関わる神経回路が続々明らかにされているが、よく考えてみると食べたという満腹シグナルがどこからくるのかについては、胃を膨らませる機械的刺激を与える研究から、胃の機械的刺激を感知する迷走神経から満腹シグナルがくると思い込んでいた。

ところが今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、満腹シグナルが胃より腸の迷走神経から強く入ってくるという意外な事実を示した研究で11月14日号のCellに掲載された。タイトルは「Genetic Identification of Vagal Sensory Neurons That Control Feeding (摂食を調節する感覚迷走神経の特定)」だ。

この論文から、現在の神経科学がどれほどダイナミックに進むかがよくわかる。まずquestionはどの迷走神経が満腹感を誘導するかだが、迷走神経は極めて多様だ。そこでまず、迷走神経が存在する神経節に蛍光標識遺伝子を導入、感覚迷走神経だけで遺伝子スイッチが起こるようにして、消化管に投射している迷走神経端末を調べ、それぞれの組織で形態学的に複雑な迷走神経端末が存在すること、また同じ迷走神経が異なる組織に投射することは極めて稀であることを確認している。

次は、各組織の迷走神経を別々に特定する分子マーカーの開発が必要になるが、これには消化管でラベルして調整した迷走神経を500個手作業で分離して、single cellトランスクリプトームアッセイを行い、全部で17種類の細胞に分類できること、そして9種類のクラスターについて特異的な分子マーカーを開発している。

さらに、この分子マーカーによるクラスターを、迷走神経の中枢神経節から採取した細胞のsingle cellトランスクリプトームと比較し、迷走神経全体ではそれぞれの組織、例えば消化管以外にも心臓などの内臓に投射する27種類のクラスターが存在し、この中に消化管からラベルしたクラスターも存在することを確認している。

このように分子マーカーが開発できると、それぞれの発現と機能を組織場で確認できるが、特に細胞の伸長など機械刺激を感じる迷走神経特異的分子マーカーを使った光遺伝学で、各組織の迷走神経を別々に刺激、食欲の変化を見てみると、これまで満腹感に関わると考えられてきた胃のストレッチを感知する迷走神経刺激では食欲はほんの少ししか抑えられず、代わりに小腸に分布する機械刺激を感知するタイプの迷走神経刺激で強く食欲が抑えられることがわかった。

満腹感につながると考えられるストレッチを感知する迷走神経が明らかになったので、次にこの神経が中枢の満足中枢と結合しているかを調べている。詳細は省くが、期待通り視床下部で摂食を高める働きのあるAgRP神経の活動を、小腸の迷走神経が抑制して食欲を抑えていることを明らかにする。

この回路を確認するために、すぐに小腸をストレッチできるマンニトールなどを摂取させる実験を行い、小腸が膨らむとAgRPの活動が低下、摂食が低下することを確認している。しかし、胃がまず膨らむセルロースではこのような反応が見られないことも確認している。

実際には正確を期すためにさらに詳しい実験が行われているが、紹介は割愛する。満腹は胃ではなく小腸で感じるという意外な話だが、なんとなくわかる気もする。というのも、同じ量食べても、満腹感がない場合と、ある場合が確かにある。胃で感じるならこんなことはないはずだ。甘いものは別腹というのも同じ原理かもしれない。ただ、これは全く科学的根拠がないので私の独り言として聞き流して欲しい。

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