心臓や脳は最もエネルギーを必要とする臓器だが、心筋や神経細胞は長期間生存し働き続ける必要がある。そのため、ミトコンドリアを常に若々しく維持することは重要で、機能が低下したミトコンドリアを処分し、新しいミトコンドリアで置き換えるオートファジーは両臓器の維持にとっては欠かせない。
今日紹介するマドリッド国立循環器研究センターからの論文はこのオートファジーを介するミトコンドリアの新陳代謝にマクロファージが重要な役割を演じていることを示した研究で10月1日号のCell に掲載された。タイトルは「A Network of Macrophages Supports Mitochondrial Homeostasis in the Heart (マクロファージのネットワークが心臓のミトコンドリアのホメオスターシスを維持している)」だ。
この研究は、マウス心臓に30万個ぐらい存在しているマクロファージを遺伝子操作で欠損させると、心室の収縮力が低下するが、正常マクロファージを投与すると機能が回復するという発見から始まっている。すなわち、心臓の機能維持にマクロファージが関わっている。そのメカニズムを探ると、マクロファージが欠損すると心筋内に機能の低下した異常ミトコンドリアが増えていることがわかった。
次に、マクロファージがどのようにして細胞内のミトコンドリア新陳代謝に関わるかを追求し、オートファジーにより細胞質で分離された機能低下ミトコンドリアが、膜で包まれたまま細胞外へ排出されたExopherを、マクロファージが貪食していることを発見する。このため、マクロファージが欠損すると、exopherが貪食されず、分解途中のミトコンドリアが細胞外に蓄積し、これが炎症を誘発することがわかった。
マクロファージの役割はこれだけにとどまらない。マクロファージが欠損してすぐには確かにミトコンドリアが細胞外に蓄積するが、少し経過すると今度はexopher自体が形成されなくなり、その結果異常ミトコンドリアが細胞内に蓄積し始める。すなわち、マクロファージが心筋内でのオートファジーを調節して心筋内のミトコンドリア新陳代謝を促していることも示している。
そして最後に、マクロファージがexopherを貪食するメカニズムとして、フォスファチジルセリンを認識して貪食するMertkが関わることを明らかにしている。
以上わかりやすいようにざっと結論だけを選んでまとめてみたが、実際には膨大な実験が提示された力作だ。マクロファージがミトコンドリアのオートファジー、すなわちマイトファジーを調節し、最後に細胞外に出てきた異常ミトコンドリアを分解処理して心筋を助けるという、これまで考えられたこともないシナリオは新鮮だ。おそらく、exopherが最初に記述された神経系でも、同じようなことが起こっている可能性がある。この研究は、このシナリオとともに、多くの新しい問題も提出した。マクロファージがどのようにマイトファジーを誘導しexopher形成を促しているのか?ミトコンドリア病での役割は?など、知りたいことが山積みだ。今後の進展を期待したい。