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10月12日 帝王切開による新生児に母親の腸内細菌叢を移植する(10月1日号 Cell 掲載論文)

2020年10月12日

生後新生児が発達する特定の時期に腸内細菌叢が十分発達していることの重要性を示す研究が多く発表されてきている。ほとんどはマウスを用いた研究で、特に免疫機能の発達への影響は、成人になっても続くことが知られている。同じことを人間で調べるのは簡単ではないが、最近帝王切開による出産で生まれた子供の腸内細菌叢の発達が、経膣出産児と比べると強く抑制されていることがわかり、両者の発達を比べることで腸内細菌叢の免疫機能への発達が推察できるのではと、大規模コホート研究が進み出した。

この問題には特に北欧が熱心で、結果はまちまちという状況だが、デンマークで行われた250万人を40年間追跡した研究から、帝王切開出産児が経膣出産時と比べると、炎症性腸疾患、リュウマチ性関節炎、セリアック病、そして1型糖尿病を発症することが示され、腸内細菌層を早期に発達させることの重要性が認識される様になってきた。

これに対してヨーグルトなどのプロバイオティックスが現在用いられ、今日紹介する論文を発表したヘルシンキ大学のあるフィンランドでは、科学的に定評があるロイテリ乳酸菌の摂取を国がサポートしているが、帝王切開出産児で特に目立つBacteroidaceaeの欠損を直すことは難しい。この研究グループは、プロバイオの代わりに母親の腸内細菌叢を生後2時間で移植することで、この問題を解決できないか調べた臨床研究で10月1日号のCellに掲載された。タイトルは「Maternal Fecal Microbiota Transplantation in Cesarean-Born Infants Rapidly Restores Normal Gut Microbial Development: A Proof-of-Concept Study (帝王切開出産児に母親の便の菌叢を移植することで正常の腸内細菌叢の発達を回復できる:コンセプトの検証研究)」だ。

この研究では帝王切開が決まったお母さんの便を丹念に調べ、病原菌の存在を認めなかった7人を選び、重さで便の3.5mg相当を生後2時間目、母乳と共に摂取させるという方法を用いている。3.5mgなのでほとんど入っているかいないか分からない量だと思うが、菌数にして10から107に相当する。

あとは便移植を受けた帝王切開出産児の腸内細菌叢を3ヶ月にわたって調べ、以下の結果を得ている。

  • 出産時の胎便のほとんどはAeromonasだが、母親の菌叢を移植して2日目ではほとんどの場合、大人で多いBacteroidaceaeが急速に増殖し、その後ビフィズス菌を中心の他の細菌種が増える。すなわち、母親の腸内細菌叢がベースになっていても、子供の腸内環境では全く異なる増殖様式が観察できる。
  • 帝王切開出産児、経膣出産児、そして便移植を受けた子供を比べると、便移植により菌叢は経膣出産児とほぼ同じになる。一方、帝王切開出産児では12周目では全く違ったままで、例えばbacteroidaceaeはほとんど見られない。
  • これまで新生児の細菌叢は膣内の細菌をベースに発達すると考えられてきたが、膣から採取した細菌叢の移植は、便の移植と比べるとほとんど効果がなかった。
  • 他のデータベースとの比較でも同じ結論になる。

我が国でも帝王切開比率が2割を確実に超えた今、もしデンマークのコホート研究が正しければ、何らかの手を打つ必要がある。その意味で、3.5mgの健常細菌叢が少なくとも腸内細菌叢回復を誘導できるなら、真剣に検討してもいい様に思う。

しかし多くの新生児の腸内細菌叢に関する研究を見ると、北欧諸国がかなり真剣にこの問題に取り組んでいるのがわかる。

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