実験動物段階の研究でも、その意外性に驚く論文がある。今日は前置きを省いてアイオワ大学からの論文を紹介する。タイトルは「Exposure to Static Magnetic and Electric Fields Treats Type 2 Diabetes(静的磁場と電場に晒すことで2型糖尿病が治療できる)」で、10月6日号のCell Metabolismに掲載された。
この論文は我々生物は地球上で静磁場と静電場の影響下で進化しており、これに対応するなんらかの仕組みを持っているはずだという、考えれば至極もっともな前置きから始めている。実際、長い距離を旅する生物が地磁気を利用しているという研究は多い。
ただこの研究では、ミトコンドリアの活性酸素により高脂肪食がインシュリン抵抗性が発生するというこれまでの研究を基礎に、この酸化還元バランスを電磁場で変化させられるのではと着想し、一足飛びに電磁場により糖尿病を治療するという可能性追及に進んでいる。
遺伝的な糖尿を示すBardet-Biedl syndromeモデルマウス、db/dbマウス、そして高脂肪食を与えられたマウスをおおよそ地球上で我々が浴びるのと同じベクトルを持った100倍の静磁場(3mT)と静電場(7kV/m)を30日間持続的に照射、そのあとで糖代謝の解析を行なっている。
結果は驚くべきもので、いずれのマウスも血中グルコースが30%以上低下する。面白いことに、静磁場と静電場の両方が必要で、静磁場だけを照射すると糖尿は悪化する。
また、30日を超えて照射し続ければ血糖上昇を抑え続けられるが、残念ながら照射をやめるとすぐに元に戻る。とはいえ、一日中浴びている必要はなく、寝ている時間7時間浴びると同じ効果がある。
メカニズムだがグルコースクランプテストから、インシュリン抵抗性が改善したことがわかるが、インシュリン受容体下流のシグナル分子の問題でなく、著者らが最初から睨んだ様に、酸化ストレスのバイオマーカーであるF2-isoprostanesがほぼ4割程度低下する。そして、酸化還元反応のマスター転写インしNRF2が上昇することを発見する。
さらに直接電磁場が影響する過程を調べ、肝臓ミトコンドリアの活性酸素、特にスーパーオキサイドの代謝を変化させることがスウィッチとして働き、NRF2転写因子を介してグルタチオンの血中への遊離を高めることで体内の還元力を高め、酸化ストレスを低減することで、インシュリン抵抗性を改善すると結論している。
最後に電磁場がスーパーオキサイドをどう変化させるかなどの問題についても議論しているが、明確な結論があるわけではないの省く。要するに、電場磁場両方に晒されるだけで、体の酸化ストレスが減り、インシュリン抵抗性が改善されるという話で十分だろう。
ではこの方法は臨床に使えるだろうか。薬の必要性はなく、一見素晴らしい治療法に見える。また、ネズミのレベルでは副作用はないとしている。しかし、私自身は電場、磁場が一定のレベルを超えると、想像以上の力を持つことに驚いた。この様な物理的作用についてはあまり真剣に考えたことはなかったが、今後ポジティブ面だけでなく、ネガティブ面についても詳しく検討すべきではないかと思う。