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10月24日 人間の脳のセロトニンやドーパミンの反応を測定できるらしい(12月9日号 Neuron 掲載予定論文)

2020年10月24日
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ドーパミンはパーキンソン病との関わりがあまりに有名で、アセチルコリンによる興奮性シグナルを抑制してバランスをとっている運動機能をすぐ思い浮かべるが、実際にはセロトニンとともに私たちの気分の調節に深く関わっていることがわかっている。おそらくうまくいって満足感を得た時のドーパミン作動性「ご褒美回路」についてはほとんどの人が知っているのではないだろうか。ただご褒美回路という名前からも分かる様に、ほとんどの実験は褒美や罰で条件づけられた動物実験で、ドーパミン作動性、セロトニン作動性の神経を記録するという実験系から生まれた概念で、同じことが生きた人間で働いていることを証明できているわけではない。というのも、ドーパミン神経を選択的に記録する技術がこれまで存在しなかった。

今日紹介するロンドン大学と米国ウェークフォレスト大学からの共同論文は直接的ではないが、、間接的にドーパミンやセロトニンの反応を人間で記録する方法を開発して、動物実験の様に褒美や罰の条件付けが必要のない課題でのそれぞれの反応を調べた研究で12月9日号のNeuronに掲載される予定だ。タイトルは「Sub-second Dopamine and Serotonin Signaling in Human Striatum during Perceptual Decision-Making(感覚に基づく決断を行なっている時の秒以下の単位のドーパミン、セロトニンシグナルを人間の線条体で記録する)」だ。

しかし、生きた人間の脳でドーパミンやセロトニン反応をどの様に記録できるというのか?よく読んでみると、筆頭著者の一人Kishidaさんたちが2011年に発表した方法で、深部刺激治療を目的に線条体に挿入された電極を通して、ドーパミンやセロトニンの酸化を誘導し、この反応から生まれる電流を記録することで、ドーパミンなどの量を秒以下の単位で調べる方法だ。最初はドーパミン、その後セロトニンについても測定が可能になっている。しかし、決して直接測定しているわけではないので、動物実験を繰り返し、それぞれのニューロトランスミッターの変化のパターンを学習し、それに基づいて各トランスミッターの反応を推定している。

対象者は深部刺激電極を設置する手術を受けるパーキンソン病2名、突発性振戦の患者さん3名で、電極設置のタイミングで、設置前に指導した課題を、設置後繰り返させることで、課題を行っている間の、ドーパミン反応とセロトニン反応を見ている。

さて課題だが、多くの独立に動いているドットが、決められた方向に動いているかどうか判断する課題で、それぞれのドットが協調していることが認識できる場合は判断が簡単になるし、また動く方向が指定された方向からのズレが大きいほど判断は優しくなる。すなわち、ドットの動きに関する確信の感覚と、それぞれの動きから統計的に判断する過程を一つの課題の中で、分離して調べることができる。

さて結果だが、はっきりしているのはセロトニンの反応で、多くのドットが揃って動いた時には安心して低くなり、逆にバラバラに動いているため不安に感じる時は上昇する。しかし、ドーパミンの反応は感覚の確実性には全く左右されない。

一方、方向性を最終的に判断するプロセスについてはドーパミンとセロトニンは逆相関しているが、共に関係している。すなわち、すぐに決断できる場合は、ドーパミン反応が高まり、セロトニン反応は下がる。また、判断を間違った場合はどちらもあまり変化しないが、判断が正しかった場合は、ドーパミン反応が高まりセロトニン反応が低下する。

結果は以上で、感覚についての不安がセロトニン反応に反映していることを示せたのは、新しい発見の様だが、大体のシナリオはこれまで動物で行われた研究に近い気がする。いずれにせよ、深部刺激治療が進んだ今、ドーパミンだけでなくセロトニンについても正しく反応を調べて、患者さんの治療につなげる可能性が生まれた様に感じており、研究の進展を期待している。

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