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10月22日 タンパク質を粘膜を通して投与する(10月14日号Science Translational Medicine掲載論文)

2020年10月22日

今回の新型コロナウイルス治療で今最も注目が集まっているのは抗体療法だが、この方法の問題はコストだ。化学合成できる化合物とは異なり、細胞に抗体を作らせ、それを精製する必要がある。当然様々な規制をクリアして、静脈に大量駐車しても安全な抗体を薬剤として届けるには、儲けがないとしてもコストは覚悟する必要がある。

抗体薬のコストを下げるための一つの可能性は、抗体を飲んで摂取することだ。抗体自体は、遺伝子操作をした牛からミルクとして回収することができる。もしミルクの中の抗体を飲んで摂取できれば、コストは今の抗体薬の100分の1にまで下げられるだろう。ただ、問題は飲んだ抗体が体の中に入るのは、乳児期だけで、私たちの腸管上皮にも抗体を取り込む能力は残っているが、胃と十二指腸を通ることで、抗体自体の活性を保つことができないため、この夢は実現できない。

今日紹介するオスロ大学からの論文は、粘膜上皮を通して大きな分子を体内に導入する方法の開発についての研究で、10月14日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「An engineered human albumin enhances half-life and transmucosal delivery when fused to protein-based biologics (遺伝子操作した人間のアルブミンは、他のタンパク質と結合させると血中の半減期と上皮を通したデリバリーを高めることができる)」だ。

読んでみると、驚くほどの話ではないが、上に述べた様に、抗体を食べることができればいいなと考えている私にとっては、学ぶところの多い論文だった。まず、粘膜を通して抗体を摂取する時に必須のFcRn受容体は、ほとんどの粘膜上皮に発現しており、腸管だけではないことを知った。

次に同じFcRnが抗体だけでなく、アルブミンも輸送する能力を有しており、実際にはアルブミンの輸送の方がずっと効率が高いこともよくわかった。

以上を確かめた上で、この研究ではヒトFcRnで置き換えたマウスモデルを用いた、経鼻的に投与したアルブミンを肺から吸収するという実験系を作り、アルブミンを体内に摂取するための条件を探索している。消化管と違い、投与できるタンパク質の量は限られており、それでも絶対量でマウス当たり、20〜50μg、人間にすれば100mgが投与できて、なんとそのうち7〜8割が体内に摂取できるという結果だ。

次にこの効率をさらに上げるために、アルブミン遺伝子に突然変異を導入し、正常のアルブミンと比べて4倍以上粘膜から移行できる、3箇所のアミノ酸が変化したQMPアルブミン開発に成功している。また、取り込みが高いだけでなく、血中での半減期も高まっている。

最後に、QMPアルブミンに、半減期が極端に短い血液凝固の第七因子を融合させ、体内に摂取できるか調べ、体内に移行するだけでなく、半減期も約3日に延長していることを示している。

これにより血友病を治療できるかどうかまでは確かめていないので、評価は難しいが、人間にして100mgぐらいのタンパク質を、血管ではなく粘膜を通して投与できることは、抗体の含まれたミルクを飲んで病気を治すという可能性が現実になることを示したと思う。

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