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10月26日 抗ガンT細胞免疫は必ずしもキラー細胞だけに頼らない(10月21日号 Nature 掲載論文)

2020年10月26日
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ガンに対する様々な治療の効果を確実に高める一つの手段として、TGFβシグナルの抑制が考えられている。例えばチェックポイント治療に使われる抗PD-L1抗体にTGFβを吸収してくれる受容体を合体させた治療法(M7824) が開発され治験が行われていることを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7964)。既に二年経っているので現在の状況をClinicalTrial.Govで確かめると、治験の範囲は広がり、39のトライアルが進んでいる。

ただ、TGFβの作用は多岐に及ぶため、効果の作用機序が解明できているかというと、そう簡単な話ではない。今日紹介する米国、スローンケッタリングガンセンターからの論文はこのTGFβ作用の複雑さの一端を教えてくれた。タイトルは「TGF-β suppresses type 2 immunity to cancer (TGFβはガンに対する2型免疫反応を抑制する)」だ。

おそらくこの研究は、ガン免疫T細胞に対するTGFβの作用を調べようと始められたものだと思う。遺伝子操作でCD4T細胞のみでTGFβ受容体がノックアウトされたマウスに、ウイルスによる乳ガンを誘導すると、正常では20週ごろから急速に癌が発生し大きくなるのに対し、CD4T細胞のTGFβ受容体が存在しないと、ガンの発生を強く抑えることができる。驚くことに、この時キラー活性に必要なCD8αをノックアウトしたマウスでも同じ様にガンが抑制されることから、この効果はガンのキラー活性を高めた結果ではないことが明らかになった。

逆から見ると、CD4T細胞はTGFβの作用を受けると、ガンを助ける方向に働くことが明らかになった。そこで、ガン組織でのCD4T細胞を、TGFβ受容体の有無で比べてみると、TGFβの作用が抑えられると、CD4T細胞が。ガンの周りの間質に数多く浸潤するとともに、腫瘍に向かう異常血管の成長が阻害され、腫瘍が強い低酸素状態に陥ること、そしてその結果腫瘍が細胞死を起こすことを明らかにする。

CD4T細胞は、インターフェロン型の1型とIL-4型の2型免疫反応に関わることが知られているので、ノックアウトマウスと掛け合わせたとき、TGFβ受容体ノックアウトの効果が変化するか調べ、TGFβの作用を受けないCD4T細胞の抗腫瘍効果はIL-4がノックアウトされていると消失することを示し、TGFβがCD4T細胞の2型免疫反応を抑えていることを明らかにする。

以上が結果で、最終的なエフェクターは特定されていないが、CD4T 細胞はIL-4を介して2型免疫反応に関わるT細胞の維持増殖に関わり、最終的にガンによる異常血管新生を抑えるが、TGFβはこれを抑えることでガンの増殖を助けるというシナリオだ。

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