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10月7日 プレシジョン医療を評価する新たな仕組み(10月2日 Nature Communication 掲載論文)

2020年10月7日

我が国でもようやくゲノム検査がガンの診断に使われる様になってきたが、まだまだその効果が実感されるとまでは言えないようだ。実際ガン遺伝子を特定できそれに対する分子標的薬を用いると劇的な効果が得られるケースは多く存在するが、一つの分子標的薬だけでは再発を防ぐことが難しく、長期的にはあまり役に立たなかったという評価が下される。従って、ゲノムやエピゲノムの網羅的解析から複数の変異を特定して最適の治療を計画することが求められる。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はより進んだゲノムに基づくプレシジョン治療の一つの枠組みとその効果を検証した臨床研究で10月2日号Nature Communicationに掲載された。タイトルは「Real-world data from a molecular tumor board demonstrates improved outcomes with a precision N-of-One strategy (ガンの分子医学ボードからの生データは個人に合わせた治療計画の効果を示している)」だ。

この研究は既に大学病院に蓄積したデータを後ろ向きに調べただけの研究で、医療の効果の判定には向かないという批判もあるかもしれない。しかし、タイトルにもある様に、プレシジョン医療を行うことは、個人に合わせて治療計画を立てることで治療自体はまちまちになる。そのため、介入方法を決めて前向きに調査するこれまでの治験方法には馴染まない。この点を明確に認識させてくれた点が、この研究の重要性だと思う。

この病院では我が国でも行われているガン遺伝子パネルに加えて、末梢血のガン遺伝子パネル、遺伝子発現や免疫組織学など、そのとき得られる様々な情報を判断して、治療計画を建てるための専門家ボードを組織し、そこで発ガンに関わる遺伝子を中心に検討を加え、治療の適合度を%で計算している。

総数で429人について適合度が計算され、適合度で患者さんの予後を分別すると、75%以上の適合度があった患者さんでは再発率も、生存期間も延長している。適合度50%でわけても、はっきりと違いが見られる。以上から、特別なチームが総合的に治療計画を判断することがプレシジョン医療の鍵になると結論している。癌遺伝子パネルでも、専門家チームを持つことで十分効果があることを示している。今後、エクソームや、全ゲノム配列決定などまで行う様になれば、ますますこの様なチームが必要になると思う。

ただ、残念なことに、このレベルの検査だけで行われた治療計画では、4年目を過ぎると適合度による差がなくなることから、プレシジョン医療として胸を張るところまでは行っていないと感じる。しかし、個人に合わせた医療の効果の検証は新しい治験プロトコルの必要性を示している。その意味で、一つのあり方を示した点で、この論文を評価したい。

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