自由診療でするとしても、我が国ではまだまだサービス体制が整っていないと思うが、ガンが蓄積した変異由来の新しい抗原を特定し、ワクチンや反応性のT細胞を使ってガンを征圧する、免疫学的に最もロジカルなテーラーメイドガン治療が、米国では少しづつ進んでいる。
ネオ抗原特定にはガンのゲノムを詳しく調べ、この中から抗原になりそうなペプチドを予測する必要がある。最近のアプリケーションの進歩で、状況は大分良くなってきたが、それでも後は運任せということも多い。というのも、予想したペプチド抗原に対する反応を全部調べるのは、実際の臨床では難しい。
今日紹介するサンディエゴの La Jolla 免疫研究所からの論文は、あらかじめT細胞が反応しそうな変異を、過去の患者さんのサンプルを用いて特定し、変異ペプチドのプールを作成しておいて、このプールに対する実際の患者さんの末梢血の反応を調べ、ネオ抗原を特定する可能性を示した研究で、2月28日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A functional identification platform reveals frequent, spontaneous neoantigen-specific T cell responses in patients with cancer(機能的方法によりガン患者さんのT細胞反応を誘導する確率の高い自然変異を特定できる)」だ。
患者さん個人個人のガンから突然変異を特定する方法ではどうしても時間がかかる。そこで、多くのガンで発生しやすく、また多くの患者さんが反応するネオ抗原を前もって決めておき、プールしたそれらの抗原ペプチドに対する患者さんの反応をガン免疫の検査として使うというアイデアがこの研究のミソになる。
このために末梢血が凍結保存され、ガン組織のパラフィンブロックが得られる患者さんの保存サンプルの提供を受けている。そして、ガンのパラフィンブロックからエクソーム解析を行い、ガンだけに見られ、複数のサンプルで発見され、ガン細胞で発現している、など様々な条件にかなった変異を特定し、この変異をカバーする20アミノ酸からなるペプチドを、一つの変異について少しずらせた2本用意し、それぞれをプールして抗原として用いている。
この結果、機能的にも確認できるほぼ200種類のネオ抗原が特定され、この中からペプチドを選んでプールすることで、様々な患者さんのガンに対する反応を調べることが出来る。
こうして選んだネオ抗原ペプチドはトータルで754種類になるが、Ras 変異など、ガンのドラーイバー変異が多く含まれており、それぞれのペプチドに対する反応を確認すると、例えば Ras 変異に対してはCD8T細胞反応が誘導される一方、TP53 変異に関してはCD4 反応が誘導されることがわかった。
次にこうして前もって用意した754のペプチドに対する反応を13人の様々なガンの患者さんで調べると、血液が50ccあれば、ほぼ全ての人で反応する変異やペプチドを特定できること、そして754種類のうち199のペプチドのいずれかに13人の患者さんが反応したことを示している。
以上が結果で、754種類と最初からペプチドを絞り、それをいくつかのプールに集めて反応を見ることで、迅速にしかも機能的にネオ抗原を特定できることを示している。
具体的に臨床にどう使うか、ワクチンにするのか、T細胞を誘導するのか、これからの問題になるが、ネオ抗原は個人特有と考えてきた先入観を打ち破った点で大きく評価できると思う。ネオ抗原の利用に一歩近づいた。