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9月11日 免疫システムの奥深さ:アナフィラキシー誘導メカニズムの新説( 8月30日号 Science 掲載論文 )

2019年9月11日
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20世紀の後半に急速に進んだ免疫学によって、様々なクラスの抗体が抗原に合わせて産生され、時によってはアナフィラキシーショックなどが起こる細胞・分子メカニズムについてはかなり明らかになった。と思っているのは自分だけで、まだまだ抗体産生でもよくわかっていなかったことをこの論文を読んで思い知らされた。

今日紹介するイェール大学からの論文は、アナフィラキシーに関わる抗原に対する高い親和性を持ったIgEは、これまでIgE産生メカニズムとして提唱されていた、GTAT3によりIL-4産生に特殊化したヘルパーT細胞がB細胞のIgE産生へのスイッチを誘導するとする考えとは異なるメカニズムで誘導されることを示した研究で8月30日号のScienceに掲載された。タイトルは「Identification of a T follicular helper cell subset that drives anaphylactic IgE (アナフィラキシーに関わる濾胞性Tヘルパー細胞のサブセットの同定)」だ。

一般的な免疫反応は低下しているのに、アナフィラキシーだけが起こりやすい、逆説的な症状がDock8の突然変異で起こることが知られているが、このメカニズムは従来のIgE産生に関する考え方では説明つかなかった。この研究では、まずこの現象をマウスで再現しようと、Dock8がT細胞、B細胞で特異的に欠損したマウスを作成し、T細胞でDock8が欠損すると、高IgE血症が起こることを明らかにし、Dock8ノックアウトによりT細胞に起こる変化とそのIgE産生との関わりを詳細に調べている。膨大なデータが示されており、読み応えがある力作だが、ここでは全て割愛して、結論だけを箇条書きにする。

  • T細胞でDox8が欠損すると、普通の免疫方法で抗原投与を行なっても、親和性の高いIgEが産生され、アナフィラキシーを起こす。この時、正常マウスにはほとんど存在しないIL4陽性、IL13陽性で、濾胞T細胞の特徴を持つT細胞サブセットが出現し、 B 細胞のIgEへのスイッチを誘導する。この時IL13とIL4の両方を同時に発現することが重要で、IL4だけではアナフィラキシーは起こせない。
  • T細胞でIL21により誘導されるDock8は、このTサブセットが通常の免疫反応で出現してB細胞が必要のない時にIgEにスイッチさせるのを防いでいる。
  • IL13陽性の濾胞性T 細胞は、正常マウスで高い抗原親和性のIgEを誘導してアナフィラキシーを起こす免疫プロトコルで、上昇する。単一細胞のRNA発現を調べることで、IL13,IL4陽性細胞は独立したT細胞のサブセットであり、自然免疫システムに依存しない、IL21の誘導が少ない免疫プロトコルで誘導される。
  • これまでIgEを誘導するとして用いられてきた寄生虫をアジュバントとして用いる方法では、IL13を分泌する濾胞型T細胞は誘導できず、IL4によりスイッチは起こっても、親和性の高いIgEは産生されない。

以上のデータに基づき、IgEへのクラススイッチには2タイプ存在し、IgM産生B細胞がIL4によりIgEへ直接クラススイッチする場合は、抗原親和性が低いIgEが産生される。寄生虫に対する反応がこのタイプの代表(確かに考えてみると、寄生虫でアナフィラキシーが起こっては困る)。

もう一つのタイプは、リンパ節濾胞IL13分泌T細胞が誘導され、すでにIgGへスイッチしたB細胞がこのT細胞が分泌するIL4とIL13両方の作用を受ける場合で、この場合は抗原への高い親和性を持つIgEが作られアナフィラキシーが起こる。ただ、通常の免疫ではIL21により誘導されるDock8によりこの経路は抑えられているというシナリオだ。

これまでIgEは寄生虫感染への対応として進化したと個人的には思っていたが、この研究で示された特殊なT細胞依存性にアナフィラキシーが起こるとすると、アナフィラキシーも生物学的意義を持っているのかもしれないと思う。実際説明を割愛したが、この細胞はIL5も分泌して好酸球を誘導している。このような特殊反応がどう進化したのか、面白い課題だと思う。いずれにせよ頭が整理できる素晴らしい研究だと感じた。

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